
「10年後、私はまだ歩けているでしょうか?」
「20年後も、家族と話ができているでしょうか?」
診察室で、あるいはふとした瞬間に、この問いが胸をよぎる方は多いはずです。
未来への不安は、霧のように視界を塞いでしまいます。しかし、生物学的なデータという「地図」を持てば、ある程度の道筋は見えてきます。
脊髄小脳変性症の予後(病気の見通し)は、病気のタイプによって劇的に異なります。数年で生活が一変するタイプもあれば、20年後も杖をついて散歩しているタイプもあります。この記事では、主要な病型ごとの「10年後の目安」と、経過を左右する要因について解説します。
漠然とした不安を、具体的な「生活設計」に変えていきましょう。
1. 「10年後」の景色はタイプで大きく分かれる
まず、脊髄小脳変性症の経過は、大きく2つのグループに二分されることを理解してください。
- 進行が比較的速いグループ: 多系統萎縮症(MSA)など
- 進行が緩やかなグループ: 遺伝性SCDの一部(SCA6など)や皮質性小脳萎縮症(CCA)
医師から告げられた診断名がどちらのグループに属するかで、10年後の状態は全く異なります。
それぞれの時間の流れを見ていきましょう。
2. 進行が速いタイプ(MSA)の経過
日本で最も多い孤発性(遺伝性ではない)の「多系統萎縮症(MSA)」は、他のタイプに比べて進行が速く、時間との向き合い方がシビアになります。
経過の目安
統計的なデータによると、平均的な経過は以下の通りです。
- 発症から約3年: 歩行に杖や介助が必要になる
- 発症から約5年: 車椅子生活になる
- 発症から約8年: 寝たきりの状態になる
10年後の状態と対策
平均生存期間は発症から約9年(6〜10年)とされる報告が多く、10年後は多くの患者様が寝たきり、あるいは厳しい状態にある可能性が高いのが現実です。
しかし、これは「何も対策をしなかった場合」も含めた過去のデータです。
現在は、適切な呼吸管理(気管切開やNPPV)や栄養管理(胃ろうなど)を選択することで、15年以上生存する長期生存例も報告されています。
特に、喉頭の麻痺による呼吸トラブルや、誤嚥性肺炎を防ぐケアが、予後を大きく左右します。
3. 進行が緩やかなタイプ(SCA・CCA)の経過
遺伝性のタイプや、小脳症状のみが現れるタイプでは、時計の針はずっとゆっくり進みます。
マシャド・ジョセフ病(SCA3)の場合
日本で最も多い遺伝性のタイプです。
- 進行スピード: MSAの半分程度と言われています。
- 10年後の状態: 平均して車椅子が必要になるのが発症から10〜11年頃です。つまり、10年後は「まだなんとか歩いているか、車椅子を使い始めた頃」という段階です。
- 予後: 発症から20年以上生きる方も多く、長期的な療養生活を見据える必要があります。
SCA6・SCA31・皮質性(CCA)の場合
日本人に多いこれらのタイプは、さらに進行が穏やかです。
- 経過: 進行は非常にゆっくりです。
- 10年後の状態: 発症から10年経っても、杖なしで歩いている、あるいは杖を使って自立生活を続けている方が多く見られます。10年程度で寝たきりになるケースは稀です。
- 予後: 生命予後は良好で、病気そのものではなく、天寿を全うされることが多いとされています。
4. 経過を変える「リハビリ」の力
「病気だから悪くなるのは仕方ない」と諦めてはいけません。
近年の研究で、リハビリテーションが予後によい影響を与えることが分かってきています。
「1年前」を維持する
集中的なリハビリを行うことで、運動失調の程度(SARAスコア)が改善し、その効果が半年から1年程度持続することが示されています。
病気の自然な流れとしては機能が低下していきますが、リハビリを継続することで、その坂道を緩やかにし、「1年前の状態を維持する(1年分の進行を食い止める)」ことは十分に可能です。
特に、進行が緩やかなタイプほど、リハビリによる「貯金」の効果は長く続きます。
まとめ
10年後の目安を病型ごとに整理します。
| 病型 | 10年後の目安 | 特徴 |
| 多系統萎縮症 (MSA) | 寝たきり、または予後が厳しい可能性 | 進行が速い。呼吸・嚥下管理が鍵。 |
| マシャド・ジョセフ病 (SCA3) | 車椅子が必要になり始める頃 | 生存期間は長い。 |
| SCA6, SCA31, 皮質性 (CCA) | まだ歩行可能(独歩〜杖) | 非常にゆっくり。天寿を全うできる。 |
これらはあくまで平均的なデータです。
未来は確定していません。今日のリハビリ、環境整備、そして家族との対話が、10年後の生活の質(QOL)を確実に変えていきます。
数字に惑わされず、「今の自分のタイプ」に合わせたペースで、一日一日を大切に積み重ねていきましょう。
脊髄小脳変性症の鍼灸外来
一般的な鍼灸院では行わない「体の状態を客観的に捉える方法」です。
足部の温度変化を確認する検査の一例
「診断はついた。けれど、今の自分の状態がどうなのかは、よくわからない」
「薬を続ける以外に、何を意識すればいいのか、誰も教えてくれなかった」
私たちは、こうした行き場のない不安を抱える患者さんと40年間向き合ってきました。
当院では、サーモグラフィで全身の体温分布を可視化します。
脊髄小脳変性症の方では、
ご本人が感じている歩きにくさやふらつきと一致する形で、
手足の温度分布に左右差が見られることがあります。
その一致を一緒に確認することで、
「なぜ今の動きにくさが出ているのか」を整理する手がかりになります。
この検査には専門機器と解析技術が必要なため、一般的な鍼灸院で行われることはまずありません。 感覚や印象だけに頼らず、今の体の状態を落ち着いて見つめたい方のための情報提供の場として、 ご相談をお受けしています。
参考文献
- すべてわかる神経難病(中山書店)
- 神経難病のすべて(新興医学出版社)
- 神経変性疾患ハンドブック(南江堂)
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