脊髄小脳変性症3型(SCA3)を知る|マシャド・ジョセフ病の症状と経過

脊髄小脳変性症|世界で最も多いと言われている遺伝性の型(SCA3)について詳しく解説

「脊髄小脳変性症3型(SCA3)」 あるいは、「マシャド・ジョセフ病」

診断を受けた時、聞き慣れないその病名に戸惑われたことでしょう。 遺伝性と聞いて、ご家族やお子さんの顔が頭をよぎった方もいらっしゃるかもしれません。

今まで普通にできていたことが少しずつ難しくなる不安は、言葉にできないほど重いものです。 ですが、まずは「敵を知る」ことから始めましょう。

この病気は、日本で最も多い遺伝性の脊髄小脳変性症であり、多くの先人たちが残してくれたデータや知恵があります。 今日は、この病気がどのような特徴を持ち、これからどう付き合っていけばよいのか、落ち着いて整理していきましょう。

1. SCA3(マシャド・ジョセフ病)とは?

まずは、この病気の正体についてです。

1-1. 日本で一番多いタイプ

SCA3はポルトガルの家系で見つかり世界で最も頻度が高い

脊髄小脳変性症にはたくさんの種類がありますが、その中でも日本で、そして世界的にも最も頻度が高いのが、この「SCA3」です。 別名を「マシャド・ジョセフ病(MJD)」と言います。元々ポルトガルのアゾレス諸島出身の家系で見つかったことから、この名前がつきました。

1-2. 原因は遺伝子の「繰り返し」

原因は、第14番染色体にある遺伝子の一部(CAGという配列)が、正常よりも長く繰り返されてしまうことです。 この繰り返し(リピート)が長いほど、発症年齢が若くなり、症状が少し重くなる傾向があることがわかっています。

2. SCA3特有の症状|ふらつきだけではない

この病気の特徴は、「小脳の症状(ふらつき)」だけでなく、他の神経症状も一緒に出やすいという点です。 ここが、他のタイプと少し違うところです。

2-1. びっくり眼(眼瞼後退)

SCA3の方によく見られる特徴的な表情の一つに、「びっくり眼(がん)」があります。 目をカッと見開いたような表情になることがあり、これは「眼瞼後退(がんけんこうたい)」と呼ばれる症状で、目の開きが強くなる神経学的変化によるものです。 また、目が動きにくくなり、物が二重に見える(複視)こともあります。

2-2. パーキンソン症状のような「固さ」

SCA3はパーキンソン病のような症状が出ることがある

表情が硬くなったり、筋肉がこわばって動きが遅くなったりする「パーキンソン症状」が出ることがあります。 手足の震えだけでなく、なんとなく体が動かしにくい、と感じることがあるかもしれません。

2-3. 足のつっぱり(痙縮)

歩くときに足が突っ張ってしまい、ハサミのように足を交差させて歩く(痙性歩行)ことがあります。 ふらつきとはまた違う、「歩きにくさ」の原因の一つです。

3. 発症年齢でタイプが分かれる

一口にSCA3と言っても、発症した年齢によって症状の出方が大きく異なります。

  • I型(若年発症:10〜30歳代): 筋肉のつっぱりやねじれが強く出やすく、ふらつきは比較的軽いことがあります。
  • II型(中年発症:20〜50歳代): 日本で最も多いタイプです。ふらつきと足のつっぱりが主な症状となります。
  • III型(高齢発症:40〜70歳代): ふらつきに加え、手足の筋肉が痩せたり、しびれが出たりする(末梢神経障害)のが特徴です。足のつっぱりはあまり目立ちません。

4. 進行のスピードとこれからの経過

「これからどうなるのか」 一番気になる点だと思います。

4-1. 進行は比較的ゆっくり

一般的に、孤発性の「多系統萎縮症(MSA)」などに比べると、進行は緩やかです。 個人差はありますが、車椅子が必要になるまでの期間は、発症から平均して約10〜11年というデータがあります(MSAは約5年と言われています)。 進行はしますが、発症後15年、20年と長く付き合っていく病気であり、適切な管理のもとで長期に経過する方も多く報告されています。

5. 治療と生活の工夫

SCA3は薬の使い分けとリハビリで症状緩和に役立つ

根本的な治療薬はまだありませんが、症状を和らげる手段はあります。

5-1. 薬を使い分ける

  • ふらつき: セレジスト(タルチレリン)など。
  • 足のつっぱり: 筋肉を柔らかくする薬(テルネリンなど)。
  • 動きにくさ: 一部の方ではL-ドパ製剤が有効な場合があります。

5-2. リハビリと生活の知恵

足のつっぱりがある場合は、アキレス腱のストレッチがとても重要です。固まらないように毎日伸ばしましょう。 また、飲み込みにくさ(嚥下障害)が出てきたら、食事にとろみをつけるなどの工夫で、誤嚥性肺炎を防ぐことができます。

6. 遺伝についてご家族へ

SCA3は「常染色体優性遺伝」です。 性別に関係なく、親から子へ50%の確率で遺伝します。

気をつけていただきたいのが、「表現促進現象(ひょうげんそくしんげんしょう)」です。 親から子へ遺伝する際、原因となる遺伝子の繰り返し回数が増えて、親よりも発症年齢が若くなったり、症状が少し重くなったりすることがあります。 特に父親から遺伝する場合に、その傾向が強いと言われています。

お子さんのこと、将来のこと、心配は尽きないと思います。 ですが、遺伝子診断を受けるかどうかは、ご本人やお子さんの人生に関わる大きな決断です。専門のカウンセラーや医師とじっくり相談し、時間をかけて決めていってください。

7. まとめ

SCA3は、多彩な症状が出る病気ですが、その分、薬やリハビリで対応できる幅も広いと言えます。 「びっくり眼」や「足のつっぱり」など、自分に出やすい症状を知っておくことで、医師とも相談しやすくなります。

焦らず、一つ一つの症状と向き合いながら、今の生活を大切に守っていきましょう。


脊髄小脳変性症の鍼灸外来

一般的な鍼灸院では行わない「体の状態を客観的に捉える方法」です。

脊髄小脳変性症の方の足部の温度分布を確認する様子

足部の温度変化を確認する検査の一例

「診断はついた。けれど、今の自分の状態がどうなのかは、よくわからない」

「薬を続ける以外に、何を意識すればいいのか、誰も教えてくれなかった」

私たちは、こうした行き場のない不安を抱える患者さんと40年間向き合ってきました。


当院では、サーモグラフィで全身の体温分布を可視化します。 脊髄小脳変性症の方では、 ご本人が感じている歩きにくさやふらつきと一致する形で、 手足の温度分布に左右差が見られることがあります。 その一致を一緒に確認することで、 「なぜ今の動きにくさが出ているのか」を整理する手がかりになります。

この検査には専門機器と解析技術が必要なため、一般的な鍼灸院で行われることはまずありません。 感覚や印象だけに頼らず、今の体の状態を落ち着いて見つめたい方のための情報提供の場として、 ご相談をお受けしています。

参考文献

この記事は、以下の資料に基づき作成されました。

  • 脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018(南江堂)
  • 脊髄小脳変性症のすべて(日本プランニングセンター)
  • 脳神経内科(中外医学社)
  • 脊髄小脳変性症のリハビリテーション(全日本病院出版会)

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この記事を書いた人

難治性疾患 認定鍼灸師 / 相良 明範

お医者様の治療が確立されていない家族の難病をきっかけに、鍼灸師になることを志す。一見クールに見られがちだが、優しさは人一倍。患者さんの不安にしっかりと向き合い、一人一人に応じた必要な治療法の提案をしている。独特なコミュニケーション力により、スタッフや患者さんとの厚い信頼関係を築いている。

難治性疾患 認定鍼灸師 / 相良 明範

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お医者様の治療が確立されていない家族の難病をきっかけに、鍼灸師になることを志す。一見クールに見られがちだが、優しさは人一倍。患者さんの不安にしっかりと向き合い、一人一人に応じた必要な治療法の提案をしている。独特なコミュニケーション力により、スタッフや患者さんとの厚い信頼関係を築いている。

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