脊髄小脳変性症と余命|何年生きられる?平均寿命と生活の質

脊髄小脳変性症|平均寿命はどのくらい?生活設計や合併症を防ぐ方法なども詳しく解説

「あと、何年生きられるのだろうか」

診断を受けた時、あるいは症状が進んできた時、この問いが頭を離れないのは当然のことです。 しかし、生物学的な視点で申し上げると、脊髄小脳変性症という病気には、一律の「余命」は存在しません。

なぜなら、この病気は単一のものではなく、タイプ(病型)によって進行のスピードが劇的に異なるからです。数年で生活が一変するタイプもあれば、天寿を全うできるタイプもあります。

この記事では、主要な病型ごとの平均的なデータ(平均余命や車椅子までの期間)と、寿命を左右する最大の要因について解説します。

数字に怯えるのではなく、「リスクを知って回避する」ための地図として、この情報を活用してください。

1. 「平均余命」は病型で全く異なる

まず、大きな分類から理解しましょう。 脊髄小脳変性症の予後(病気の見通し)は、大きく2つのグループに分かれます。

  1. 進行が速いグループ: 多系統萎縮症(MSA)など
  2. 進行が緩やかなグループ: 皮質性小脳萎縮症(CCA)、SCA6、SCA31など

医師から「脊髄小脳変性症です」と告げられただけでは、余命は分かりません。 ご自身の診断名が、どのサブタイプ(細かい分類)に属するかによって、時計の進み方は全く違うのです。

1-1. 最も注意が必要な「多系統萎縮症(MSA)」

日本で最も多い孤発性(遺伝性ではない)のタイプです。残念ながら、この型は他のものに比べて進行が速いことが統計的に明らかになっています。

  • 平均余命(罹病期間): 発症から約9年(報告により6〜10年)
  • 進行の目安: 車椅子が必要になるまで約5年、寝たきりになるまで約8年

これらはあくまで平均値ですが、小脳だけでなく自律神経(血圧や呼吸の調整)も障害されるため、身体への負担が大きくなります。
※これらの数値は過去の統計に基づく平均であり、個々の経過を示すものではありません。

1-2. 適切な管理が数値を書き換える

「あと9年しかないのか」と絶望するのは早計です。 上記のデータは、過去の治療環境も含めた統計です。

死因の多くは「喉頭の麻痺(息ができなくなる)」や「誤嚥」ですが、現在は適切な呼吸管理や栄養管理(胃ろうなど)を行うことで、15年以上生存する長期生存例も数多く報告されています。

2. 遺伝性やその他のタイプの見通し

もし、診断名が多系統萎縮症以外であれば、タイムラインはもっと緩やかになります。 遺伝性のタイプ(SCA)や、小脳症状だけのタイプについて見てみましょう。

2-1. マシャド・ジョセフ病(SCA3)

日本で最も多い遺伝性のタイプです。

  • 経過: 多系統萎縮症に比べて進行は緩やかです。
  • 車椅子: 必要になるまで平均約10〜11年。
  • 余命: 平均罹病期間は14年以上とされており、発症から20年以上生きる方も珍しくありません。

2-2. 天寿を全うできるタイプ(SCA6、SCA31、CCA)

以下のタイプは、進行が非常にゆっくりであることが特徴です。

  • SCA6 / SCA31: 日本人に多い遺伝性タイプです。進行は年単位でもわずかで、発症から10年経っても杖なしで歩ける方もいます。生命予後は良好で、病気そのもので命を縮めることは少ないとされています。
  • 皮質性小脳萎縮症(CCA): 遺伝性のない孤発性ですが、小脳症状のみが現れるため予後は良好です。発症10年後でも約7割の方が自立した生活を送っているというデータがあります。

このように、病型によって「何年生きられるか」の答えは変わります。 しかし、どのタイプであっても、生命を脅かす「真の敵」は共通しています。

3. 寿命を縮める「真の原因」と対策

脊髄小脳変性症という病気そのものが、直接心臓を止めることは稀です。 亡くなる原因の多くは、身体の機能低下に伴う「合併症」です。

3-1. 最大の敵は「誤嚥性肺炎」

進行期における死因として最も多いのが、誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)や尿路感染症です。 飲み込む力(嚥下機能)が低下し、食べ物や唾液が気管に入ってしまい、そこで細菌が繁殖して肺炎を起こします。

つまり、「飲み込む力を守ること」と「感染を防ぐこと」が、寿命を延ばすための最大の鍵となります。

3-2. 呼吸と栄養の管理

多系統萎縮症の場合は、睡眠中の呼吸トラブル(声帯が開かないなど)による突然死のリスクがあります。 これも、CPAP(シーパップ)などの呼吸補助装置を適切に使うことで防ぐことができます。

「進行するから仕方ない」と放置せず、合併症を先回りして防ぐ対策をとることで、平均余命の壁は超えていけるのです。

4. 「長さ」だけでなく「質」を見る

生物学的に「生きている」ことと、人間らしく「生きる」ことは違います。 ただ年数を延ばすだけでなく、生活の質(QOL)をどう保つかが重要です。

  • リハビリ: 飲み込みの筋肉を鍛える、足の筋力を保つ。
  • 環境調整: 転倒して骨折しない(寝たきりを防ぐ)ための手すりや道具の活用。

これらは、今日からできる「未来への投資」です。 平均寿命という数字は、あくまで過去のデータの平均値に過ぎません。あなたの未来がその通りになるという予言ではないのです。

病気という事実は変えられませんが、「今の体の状態を正しく知り、維持するケア」を行うことで、穏やかな時間を長くすることは十分に可能です。


脊髄小脳変性症の鍼灸外来

一般的な鍼灸院では行わない「体の状態を客観的に捉える方法」です。

脊髄小脳変性症の方の足部の温度分布を確認する様子

足部の温度変化を確認する検査の一例

「診断はついた。けれど、今の自分の状態がどうなのかは、よくわからない」

「薬を続ける以外に、何を意識すればいいのか、誰も教えてくれなかった」

私たちは、こうした行き場のない不安を抱える患者さんと40年間向き合ってきました。


当院では、サーモグラフィで全身の体温分布を可視化します。 脊髄小脳変性症の方では、 ご本人が感じている歩きにくさやふらつきと一致する形で、 手足の温度分布に左右差が見られることがあります。 その一致を一緒に確認することで、 「なぜ今の動きにくさが出ているのか」を整理する手がかりになります。

この検査には専門機器と解析技術が必要なため、一般的な鍼灸院で行われることはまずありません。 感覚や印象だけに頼らず、今の体の状態を落ち着いて見つめたい方のための情報提供の場として、 ご相談をお受けしています。

参考文献

  • すべてわかる神経難病(中山書店)
  • 多系統萎縮症の新診断基準とこれからの診療(医学書院)
  • 多系統萎縮症 Update(科学評論社)

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この記事を書いた人

難治性疾患 認定鍼灸師 / 相良 明範

お医者様の治療が確立されていない家族の難病をきっかけに、鍼灸師になることを志す。一見クールに見られがちだが、優しさは人一倍。患者さんの不安にしっかりと向き合い、一人一人に応じた必要な治療法の提案をしている。独特なコミュニケーション力により、スタッフや患者さんとの厚い信頼関係を築いている。

難治性疾患 認定鍼灸師 / 相良 明範

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