脊髄小脳変性症の遺伝確率を知る|子どもや孫への遺伝リスクと検査

脊髄小脳変性症|子供や孫への遺伝確率や遺伝子検査について詳しく解説

「遺伝」という言葉を聞いたとき、私たちは学校の授業で習ったエンドウ豆や血液型の話を思い出すかもしれません。しかし、ご自身やご家族が脊髄小脳変性症(SCD)と診断されたとき、その言葉はまったく違う重みを持って響きます。「もし自分の子供に遺伝したら」「孫の代はどうなるのか」。そのような不安を抱くのは、家族を大切に思うからこそ生まれる、あまりに自然な感情です。

生物学的な視点から言えることは、遺伝には「確かな法則」があるということです。そこには曖昧な運命論ではなく、細胞の中で起きている論理的なメカニズムが存在します。

この記事では、脊髄小脳変性症の遺伝について、難解な医学用語をできるだけ生物の授業のように噛み砕いて解説していきます。感情や憶測ではなく、事実と仕組みを整理して知ることで、漠然とした不安の霧を少しでも晴らす手助けになればと思います。


脊髄小脳変性症には「遺伝するタイプ」と「しないタイプ」がある

まず最初に整理しておきたい重要な事実は、脊髄小脳変性症という診断名がついたからといって、必ずしも遺伝するわけではないということです。この病気は一つの単一な病気ではなく、症状が似ている複数の病気の総称だからです。

日本人の約7割は遺伝しない「孤発性」

脊髄小脳変性症は孤発性(遺伝と関係がない脊髄小脳変性症)か遺伝性かのタイプに分かれる

意外に思われるかもしれませんが、日本における脊髄小脳変性症の患者さんのうち、約65〜70%は「孤発性(こはつせい)」と呼ばれるタイプです。孤発性とは、その名の通り「孤立して発生する」、つまり家系内に同じ病気の人がおらず、遺伝とは無関係に発症するものです。

具体的には、「多系統萎縮症(MSA)」や「皮質性小脳萎縮症(CCA)」などがこれに含まれます。もし、ご自身の診断名がこれらであれば、原則として遺伝の心配はありません。生物学的に見ても、これらの病気は遺伝子の変異が親から子へ伝わるメカニズムを持っていないためです。まずはご自身の診断名(病型)を正確に把握することが、遺伝リスクを知るための出発点となります。

遺伝する「遺伝性」は約3割

一方で、残りの約30%が「遺伝性」に分類されます。こちらは、親から子へと病気の原因となる遺伝子が伝わる可能性があるタイプです。

遺伝性の脊髄小脳変性症の多くは、「常染色体優性遺伝(顕性遺伝)」という形式をとります。これは、両親のどちらかから原因となる遺伝子を一つでも受け継ぐと発症する可能性があるというものです。3割というと少なく感じるかもしれませんが、ご家族に同じような症状の方がいらっしゃる場合は、このタイプである可能性が高くなります。次の章からは、この「遺伝性」の場合にどのような確率で遺伝するのか、その仕組みを詳しく解説します。


遺伝の仕組みを生物学的に理解する(常染色体優性遺伝)

「遺伝確率50%」という数字をよく耳にするかと思いますが、なぜ50%になるのか、その仕組みを細胞レベルでイメージしてみましょう。これを理解すると、それが単なる「不運」ではなく、生命の設計図の受け渡しルールであることがわかります。

遺伝子は「ペア」で働く設計図

私たちの体をつくる設計図である遺伝子は、基本的にすべて「ペア(2つ1組)」で存在しています。父親から1つ、母親から1つ譲り受け、それが対になってあなたという人間を形成しています。

遺伝性の脊髄小脳変性症(常染色体優性遺伝)の場合、患者さんは「病気の原因となる遺伝子」と「正常な遺伝子」のペアを持っています。ここで重要なのは、この病気が「優性(顕性)」であるという点です。これは「優れている」という意味ではなく、ペアのうち片方でもその遺伝子があれば、その特徴(病気)が現れやすいという性質を指します。

つまり、患者さんの体の中には、2種類の設計図のコピーが存在している状態なのです。一つは発症に関わる設計図、もう一つは関わらない設計図です。

50%の確率とはどういうことか

1/2の遺伝確率で子供、孫に遺伝する常染色体優性遺伝形式の図

子供ができるとき、親は自分の持っているペアの遺伝子のうち、どちらか「1つだけ」を子供に渡します。これはトランプのカードを2枚持っていて、どちらか1枚を伏せて相手に渡すようなものです。

患者さんは「病気の遺伝子」と「正常な遺伝子」を持っています。子供に渡すのが「病気の遺伝子」である確率は1/2、つまり50%です。逆に言えば、「正常な遺伝子」を渡す確率も50%です。これが、性別に関係なく子供に50%の確率で遺伝するという理由です。

この確率は、兄弟姉妹であっても一人ひとり独立しています。「兄が遺伝したから、弟は大丈夫」というわけではなく、コイン投げで毎回表が出るか裏が出るかが半々であるのと同じように、それぞれのお子さんに対して常に確率は50%なのです。


子供への遺伝確率|病型ごとの詳しい数字

前章での基本的な仕組みを踏まえ、ここでは具体的な病型ごとの遺伝確率を見ていきましょう。医師から告げられた病型と照らし合わせて確認してください。

常染色体優性遺伝(SCA1, SCA2, SCA6など)の場合

遺伝性の脊髄小脳変性症の中で最も多いのがこのタイプです。SCA1、SCA2、SCA3(マシャド・ジョセフ病)、SCA6、SCA31、DRPLAなどが該当します。

このタイプの場合、子供への遺伝確率は50%(1/2)です。 重要なのは、この確率は男女ともに同じであるということです。父親から息子へ、母親から娘へ、といった性別の組み合わせによる確率の変動はありません。

もし遺伝子を受け継いだ場合、将来的に発症する可能性は高くなります。ただし、いつ発症するか、どの程度症状が重くなるかは、個人差が非常に大きく、親と全く同じ経過をたどるとは限りません。同じ遺伝子を持っていても、発症時期が10年以上異なることも珍しくないのです。

常染色体劣性遺伝と孤発性の場合

親が保因者の場合、1/4の遺伝確率で子供に遺伝する常染色体劣性遺伝形式の図

頻度は低いですが、「常染色体劣性遺伝(潜性遺伝)」というタイプもあります。ビタミンE単独欠乏性失調症などがこれにあたりますが、日本では稀(約1.8%)です。

この場合、両親がともに「保因者(病気ではないが遺伝子を持つ)」であるときに限り、子供が発症する確率は25%(1/4)となります。また、患者さんの子供は、配偶者が同じ遺伝子を持っていない限り、通常は発症せず「保因者」となります。

そして、最初に触れた「孤発性(多系統萎縮症など)」の場合、子供への遺伝確率は原則0%です。ごく稀に家族性の報告もありますが、極めて例外的です。多系統萎縮症(MSA)であれば、お子さんが同じ病気になる心配をする必要は、生物学的にはほとんどありません。


孫への遺伝確率|隔世遺伝はあるのか

次に多いのが「孫への遺伝」に関する不安です。「子供には症状が出ていないけれど、孫に飛び越えて遺伝するのではないか(隔世遺伝)」という疑問を持たれる方が多くいらっしゃいます。

「子供が遺伝していない」なら孫へのリスクはゼロ

脊髄小脳変性症の孫への遺伝確率

結論から申し上げますと、常染色体優性遺伝において、病気の遺伝子を持っていない子供から、孫へ病気が遺伝することはありません。

遺伝子は物理的な物質(DNA)です。親から子へその物質が渡されなかった場合、その子供(孫から見た親)の体内に病気の遺伝子は存在しません。持っていないものを、さらにその子供(孫)に渡すことは不可能です。

つまり、あなたのお子さんが遺伝子を受け継いでいないことが確認されれば、そこから先の世代(孫、ひ孫)への遺伝のリスクは0%となり、そこで遺伝の流れは完全に止まります。

孫への遺伝確率は「親の結果」次第

孫への遺伝確率は、その親(あなたのお子さん)が遺伝子を受け継いでいるかどうかで決まります。

  • 子供が遺伝子を受け継いでいない場合: 孫への遺伝確率は0%です。
  • 子供が遺伝子を受け継いでいる場合: その子供(孫)に遺伝する確率は、再び50%となります。

祖父母(あなた)から見て、特定の孫が遺伝子を持つ確率は、数学的には0.5(子供への遺伝)×0.5(孫への遺伝)で25%と計算できます。しかし、これはあくまで生まれる前の計算上の話です。実際には、中間世代であるお子さんの結果が確定した時点で、孫のリスクは0%か50%かのどちらかになります。


「表現促進現象」とは|世代を経ると変わること

遺伝性の脊髄小脳変性症、特にSCA1やMJD/SCA3、DRPLAなどの病型では、「表現促進現象(アンティシペーション)」と呼ばれる現象が見られることがあります。これは、親から子、子から孫へと世代を経るごとに変化が生じる現象です。

発症年齢が早まる・症状が重くなる仕組み

遺伝確率は変わらないが遺伝子が、子供、孫へ遺伝するごとに、発症年齢が若くなる「表現促進現象」

表現促進現象とは、世代が進むにつれて発症年齢が若くなり、症状が重くなる傾向のことを指します。 生物学的な背景を少し補足すると、これは原因となる遺伝子の中にある特定の配列(繰り返し配列)が、世代を経るごとに少しずつ伸びてしまうことで起こると考えられています。設計図のコピーを繰り返すうちに、特定の部分だけが余分に複製されて長くなってしまうイメージです。

この配列が長くなればなるほど、細胞への影響が強まり、結果としてより若い年齢で発症したり、進行が早まったりすることがあります。

父親からの遺伝で注意が必要なケース

この現象は、すべての遺伝性脊髄小脳変性症で起こるわけではありません。SCA6やSCA31などではこの傾向はあまり見られず、世代間での変化は少ないとされています。

一方で、SCA1、MJD/SCA3、DRPLAなどでは注意が必要です。特に、父親から遺伝した場合に、この表現促進現象が強く出る傾向があることが知られています。これは精子が作られる過程での遺伝子の複製の仕組みが関わっているとされています。

もし、ご自身の病型がこれらのタイプに当てはまる場合は、お子さんの発症リスクだけでなく、発症時期についても考慮に入れる必要があります。


正しい知識を持つことが家族を守る第一歩

家族が脊髄小脳変性症の遺伝確率について、正しい知識を持つことが大切

ここまで、少し複雑な遺伝の話をしてきました。 多系統萎縮症(MSA)などの孤発性であれば、遺伝の心配は基本的にありません。遺伝性(主にSCAシリーズ)の場合は、子供へは50%の確率で遺伝し、孫への影響はその親次第となります。

「50%」という数字をどう受け止めるかは、非常に難しい問題です。しかし、これは誰のせいでもありません。生物が生命をつなぐ過程で起きる自然の法則であり、罪悪感を持つ必要はないのです。

遺伝カウンセリングという選択肢

ご自身の病型が不明な場合や、将来への不安が拭えない場合は、神経内科の専門医による「遺伝カウンセリング」を受けることをお勧めします。

遺伝カウンセリングでは、家系図に基づいた正確なリスク評価や、遺伝子検査を受けるべきかどうか、受けるとしたらどのタイミングが良いかなどについて、専門家と相談することができます。遺伝子検査には、「白黒はっきりする」というメリットがある一方で、「知ることで生じる心理的な負担(発症前の不安など)」というデメリットもあります。

特に発症していないお子さんやご自身の検査については、ご家族で慎重に話し合い、専門家を交えて決定することが大切です。正しい情報は、漠然とした恐怖を、対処可能な課題へと変えてくれるはずです。


脊髄小脳変性症の鍼灸外来

一般的な鍼灸院では行わない「体の状態を客観的に捉える方法」です。

脊髄小脳変性症の方の足部の温度分布を確認する様子

足部の温度変化を確認する検査の一例

「診断はついた。けれど、今の自分の状態がどうなのかは、よくわからない」

「薬を続ける以外に、何を意識すればいいのか、誰も教えてくれなかった」

私たちは、こうした行き場のない不安を抱える患者さんと40年間向き合ってきました。


当院では、サーモグラフィで全身の体温分布を可視化します。 脊髄小脳変性症の方では、 ご本人が感じている歩きにくさやふらつきと一致する形で、 手足の温度分布に左右差が見られることがあります。 その一致を一緒に確認することで、 「なぜ今の動きにくさが出ているのか」を整理する手がかりになります。

この検査には専門機器と解析技術が必要なため、一般的な鍼灸院で行われることはまずありません。 感覚や印象だけに頼らず、今の体の状態を落ち着いて見つめたい方のための情報提供の場として、 ご相談をお受けしています。

参考文献

  • すべてわかる神経難病医療(中山書店) 
  • 子供の病気・遺伝について聞かれたら(診断と治療社) 
  • 脊髄小脳変性症・多系統萎縮症Q&A(SCD・MSA友の会編)

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この記事を書いた人

難治性疾患 認定鍼灸師 / 相良 明範

お医者様の治療が確立されていない家族の難病をきっかけに、鍼灸師になることを志す。一見クールに見られがちだが、優しさは人一倍。患者さんの不安にしっかりと向き合い、一人一人に応じた必要な治療法の提案をしている。独特なコミュニケーション力により、スタッフや患者さんとの厚い信頼関係を築いている。

難治性疾患 認定鍼灸師 / 相良 明範

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お医者様の治療が確立されていない家族の難病をきっかけに、鍼灸師になることを志す。一見クールに見られがちだが、優しさは人一倍。患者さんの不安にしっかりと向き合い、一人一人に応じた必要な治療法の提案をしている。独特なコミュニケーション力により、スタッフや患者さんとの厚い信頼関係を築いている。

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