
「親戚に同じ病気の人がいないから、遺伝ではないはず」 「親もふらついていたけれど、ただの老化だと思っていた」
診断を受けた時、真っ先に頭をよぎるのは「遺伝」の二文字です。 生物学的に見ると、この病気には「遺伝子の設計図そのものにエラーがあるタイプ(遺伝性)」と、「後天的な要因で神経が変性するタイプ(孤発性)」の2種類が存在します。
この2つは、名前こそ同じ「脊髄小脳変性症」ですが、進行のスピードや現れる症状、そして将来への対策が大きく異なります。
この記事では、両者の見分け方、進行パターンの違い、そして「家族歴がないのに遺伝性」というケースの謎について解説します。 ご自身の病気がどちらのタイプに近いのかを知ることは、未来の地図を描くための第一歩です。
1. 全体の割合と「孤発性」の意味
まず、日本における脊髄小脳変性症の全体像を把握しましょう。
- 孤発性(こはつせい):約65〜70%
- 遺伝性はなく、その人の代で初めて発症したもの。
- 遺伝性(いでんせい):約30%
- 親から子へ、遺伝子の変異が受け継がれたもの。
意外かもしれませんが、全体の約3分の2は「遺伝しないタイプ」です。 「脊髄小脳変性症=遺伝病」というイメージは、生物学的には半分正解で、半分間違いなのです。
では、自分がどちらのタイプなのか。医師はどこを見て判断しているのでしょうか?
2. 3つのチェックポイントで見分ける
医師が診断を下す際、主に「家族歴」「症状」「MRI画像」の3つを組み合わせます。これらは、病気の正体を見破るための重要な手がかりです。
① 家族歴(親・兄弟・祖父母)
最も大きな判断材料です。 両親や兄弟に同じ症状の方がいれば「遺伝性」の可能性が高くなります。
【重要】両親が分からない場合 「離婚や死別で、親の晩年の状態を知らない」という方もいらっしゃるでしょう。 遺伝性(優性遺伝)の場合、理論上は「すべての世代」に患者さんが現れます。もし両親の情報がなくても、祖父母や、親の兄弟(おじ・おば)に、「歩き方が不自由だった」「呂律が回りにくかった」という方がいなかったかを思い出してみてください。 記憶の中の「おじいちゃんの老化」が、実は病気のサインだったというケースは少なくありません。
② 症状の組み合わせ(自律神経など)
ふらつき(小脳症状)以外の症状が出るかどうかも重要です。
- 孤発性(MSAなど)の傾向:
- ふらつきに加え、「立ちくらみがひどい」「尿が出にくい(または漏れる)」といった自律神経症状や、手足が固くなるパーキンソン症状が強く出やすい。
- 遺伝性(SCA6/31など)の傾向:
- 純粋に「ふらつき」「呂律が回りにくい」という小脳症状だけが目立つことが多い。
③ MRI画像のサイン
脳のMRI検査でも、特徴的な違いが現れます。
- 孤発性(MSA): 小脳だけでなく、脳幹(命の維持に関わる部分)も萎縮します。脳幹の一部に「十字のパン(Hot Cross Bun sign)」のような白い影が見えることがあります。
- 遺伝性(SCA6/31): 小脳の上部を中心に萎縮が見られ、脳幹は比較的保たれていることが多いです。
これらの情報を総合して診断が行われますが、最も気になる「進行スピード」には、両者で決定的な違いがあります。
3. 進行パターンの違い|速いのはどっち?
将来の計画を立てる上で、進行速度の予測は不可欠です。 一般的に、「孤発性のMSAは速く、遺伝性はゆっくり」という傾向があります。
孤発性:多系統萎縮症(MSA)の場合
孤発性の多くを占めるこのタイプは、進行が比較的速いのが特徴です。
- 進行: 発症から車椅子まで約5年、寝たきりまで約8年というデータがあります。
- 注意点: 自律神経(呼吸や血圧)にも影響が出るため、誤嚥や失神への対策を早期に行う必要があります。
遺伝性(SCA6, SCA31)や皮質性(CCA)の場合
遺伝性の中でも日本人に多いタイプや、孤発性の皮質性小脳萎縮症は、進行が非常に緩やかです。
- 進行: 発症から10年以上経っても、杖を使って歩いている方が多く見られます。
- 予後: 生命予後は良好で、病気そのものではなく天寿を全うできるケースが多いとされています。
例外:マシャド・ジョセフ病(SCA3)
遺伝性で最も多いこのタイプは、個人差があります。 平均的にはMSAよりゆっくり(20年以上の経過)ですが、発症年齢が若いほど進行が速くなる「表現促進現象」という特徴を持っています。
このように、タイプによって「時間の進み方」は異なります。 しかし、中には「家族に誰もいないのに、検査をしたら遺伝性だった」という不思議なケースが存在します。
4. 「隠れ遺伝性」の謎
「家族歴なし=孤発性」と診断されていたのに、遺伝子検査で「遺伝性(SCA6など)」と判明することがあります。なぜこのようなことが起きるのでしょうか。
生物学的な理由は主に2つです。
- 親が発症前に亡くなっていた: 事故や他の病気で、親が脊髄小脳変性症を発症する年齢になる前に亡くなっていた場合、遺伝子のバトンが渡っていたことに気づけません。
- 症状が軽くて気づかれなかった: SCA6やSCA31は高齢発症で進行がゆっくりです。「年をとって足腰が弱っただけ」と家族が思い込み、診断がつかないまま生涯を終えていた可能性があります。
ご自身の確定診断のために遺伝子検査を行うかどうかは、主治医とよく相談してください。 特に、お子さんがいらっしゃる場合は、将来に関わるデリケートな問題も含みます。
まとめ
脊髄小脳変性症のタイプを見分けるフローを整理します。
- 家族歴: 親・兄弟・祖父母に似た症状の人がいれば「遺伝性」の可能性大。
- 症状: 自律神経症状やパーキンソン症状が強ければ「孤発性(MSA)」を疑う。
- 画像: 脳幹の萎縮が強ければ「MSA」、小脳のみなら「遺伝性SCA」や「CCA」。
- 孤発性(MSA): 進行が速いため、早めの環境整備と対策が必要。
- 遺伝性・皮質性: 進行はゆっくり。長期的な機能維持(リハビリ)が鍵。
「遺伝性だから悪い」「孤発性だから良い」という単純な話ではありません。 それぞれのタイプが持つ「特徴」と「時間軸」を知り、それに合わせた対策(リハビリや環境調整)を行うことが、今の生活を守るための最適解です。
脊髄小脳変性症の鍼灸外来
一般的な鍼灸院では行わない「体の状態を客観的に捉える方法」です。
足部の温度変化を確認する検査の一例
「診断はついた。けれど、今の自分の状態がどうなのかは、よくわからない」
「薬を続ける以外に、何を意識すればいいのか、誰も教えてくれなかった」
私たちは、こうした行き場のない不安を抱える患者さんと40年間向き合ってきました。
当院では、サーモグラフィで全身の体温分布を可視化します。
脊髄小脳変性症の方では、
ご本人が感じている歩きにくさやふらつきと一致する形で、
手足の温度分布に左右差が見られることがあります。
その一致を一緒に確認することで、
「なぜ今の動きにくさが出ているのか」を整理する手がかりになります。
この検査には専門機器と解析技術が必要なため、一般的な鍼灸院で行われることはまずありません。 感覚や印象だけに頼らず、今の体の状態を落ち着いて見つめたい方のための情報提供の場として、 ご相談をお受けしています。
参考文献
- 小脳と運動失調(中山書店)
- 神経難病のすべて-症状・診断から最先端治療、福祉の実際まで-(新興医学出版社)
- すべてわかる神経難病医療(中山書店)
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