
「もしかして、この病気は子供にも……」
診断を受けた時、ご自身の身体のこと以上に、お子さんやお孫さんの将来を案じて胸を痛める方は少なくありません。 生物学の視点から見ると、遺伝子とは親から子へと受け継がれる「生命の設計図」であり、バトンのようなものです。しかし、そのバトンの中身までは目に見えません。
この記事では、脊髄小脳変性症の「家族性(遺伝性)」について、遺伝の確率や仕組み、そして親として子供にどう向き合うべきかという課題について解説します。
漠然とした「罪悪感」や「恐怖」に押しつぶされる前に、まずは正しい遺伝のルールを整理しましょう。
1. 「家族性」と遺伝確率50%の真実
脊髄小脳変性症の約3割は「家族性」であり、その多くは「常染色体優性遺伝(じょうせんしょくたいゆうせいいでん)」という形式をとります。
1-1. 「2分の1」という数字の意味

「親が発症している場合、子供に遺伝する確率は50%(2分の1)」 この数字を聞いたとき、親としてはこう願いたくなるものです。
「子供が2人いれば、確率的に1人は発症しても、もう1人は大丈夫なのではないか」と。
しかし、生物学的な事実は少し異なります。 遺伝子は過去の結果を記憶しません。厳しい言い方に聞こえるかもしれませんが、兄弟の人数に関係なく、「生まれてくるお子さん一人ひとりに対して、毎回コイン投げのように50%の確率がある」というのが、変えられないルールです。
第一子に遺伝しなかったからといって、第二子が必ず遺伝するわけではありませんし、その逆もまた然りです。
1-2. 遺伝子=発症ではない
ただ、ここで絶望する必要はありません。 「遺伝子を受け継ぐこと」と「親と同じように苦しむこと」はイコールではないからです。
実は、同じ遺伝子変異を持っていたとしても、「いつ発症するか」「どの程度症状が出るか」には、ある生物学的な「個人差」が存在します。
2. 発症時期と症状の個人差
「親と同じ年齢で、同じように動けなくなるのでは」 そう心配される方が多いですが、必ずしもそうではありません。
2-1. 親と同じ経過をたどるとは限らない

発症する年齢や進行のスピードは、人それぞれ異なります。 病型によっては、親世代より子世代の方が発症が早まる傾向(表現促進現象)が見られることもありますが、これも全ての人に当てはまるわけではありません。生活環境や他の遺伝的要因も複雑に関与するからです。
2-2. 遺伝は誰のせいでもない
最も大切なことですが、遺伝子の変異は、生命が誕生し進化していく過程で誰にでも起こりうる自然現象です。 病気はあくまで「体質」や「運命」のようなものであり、親が自分を責める必要もなければ、子供が「自分のせいで」と誤解する必要もありません。
しかし、頭では理解していても、「子供の将来を白黒はっきりさせたい」という焦りから、多くの親御さんが「ある検査」について悩み、そして医学的には「今は待つべき」という判断に至ります。
3. 子供の遺伝子検査(発症前診断)の是非
「子供が病気かどうか、早く知って対策したい」 その親心は痛いほど分かります。しかし、医学界および国際的なガイドラインでは、未成年の子供に対する発症前診断(症状が出る前の遺伝子検査)は「原則として行わない」ことが推奨されています。
3-1. 「知らないでいる権利」を守る
最大の理由は、現在の医学では、発症前に遺伝子変異が見つかったとしても、それを予防する有効な手段がないからです。 また、遺伝情報は一生変わりません。子供には、大人になってから自分で検査を受けるかどうかを決める「自律性」と、発症するまでは不安を抱えずに人生を歩む「知らないでいる権利(開かれた未来)」があります。
検査で白黒つけることだけが、子供への愛情ではありません。 遺伝子は変えられませんが、今すぐご家庭で実践できる「子供の体を守るための習慣」や「進行への備え」は、確実に存在します。
では、検査をしないとしたら、子供には病気のことをどう伝えればよいのでしょうか? 「脊髄小脳変性症の家系」であることを隠し通すべきか、それとも伝えるべきか。そのヒントをお話しします。
4. 子供への伝え方と心のケア
子供に病気のことをどう伝えるか、いつ話すか。 そこに正解はありませんが、子供の年齢や性格に応じた推奨される「姿勢」はあります。
4-1. 嘘をつかず、段階的に伝える

子供は親の様子や家庭の雰囲気を敏感に察知します。変にごまかしたり嘘をついたりすると、かえって子供を不安にさせ、信頼関係を損なう原因になります。
一度にすべてを話す必要はありません。 「お母さんは足が少し悪いんだよ」 「転びやすいから手伝ってね」 というように、子供の年齢や理解度に合わせて、事実を少しずつ、段階的に伝えていくことが大切です。
4-2. 「希望」もセットで手渡す
事実だけを伝えると、子供は絶望してしまうかもしれません。 「今は研究が進んでいて、将来はお薬ができるかもしれないよ」 「リハビリをすれば元気でいられる時間は長いんだよ」 と、必ず希望につながる情報も併せて伝えてあげてください。
そして何より、「病気があってもなくても、あなたへの愛情は変わらない」というメッセージを伝え続けることが、子供の心を支える土台となります。 とはいえ、家族だけで抱え込むには重すぎるテーマです。そんな時こそ、頼るべき「専門の場所」があります。
5. 専門家(遺伝カウンセリング)の活用
脊髄小脳変性症の家系に関する悩みは、主治医だけでなく、遺伝の専門家に相談することが強く推奨されます。
5-1. 遺伝カウンセリングで相談できること
多くの大学病院などには「遺伝カウンセリング外来」があり、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーが在籍しています。
- 子供にどう話せばよいか(言葉選びやタイミング)
- 子供が将来直面するかもしれない不安への対処
- 家族全体の心理的なサポート
これらを専門的な見地から一緒に考えてくれます。
5-2. 不安を受け止める場所
一人で悩んでいると、悪い方へばかり考えてしまいがちです。 カウンセリングは、検査を受けるための場所ではなく、不安を受け止め、整理するための場所です。 「誰かに話す」だけで、心の霧が晴れることもあります。
まとめ
脊髄小脳変性症と遺伝について、生物学的な事実と心のケアの両面から解説しました。
- 確率は50%: コイン投げと同じで、一人ひとりに可能性があるだけです。
- 検査は慎重に: 未成年の発症前診断は推奨されません。「知らないでいる権利」を守りましょう。
- 誠実に伝える: 嘘をつかず、年齢に合わせて少しずつ、希望と共に伝えましょう。
- 専門家を頼る: 遺伝カウンセリングを活用し、家族だけで抱え込まないようにしましょう。
遺伝子はあくまで設計図の一部です。 どう生きるか、どう家族と時間を過ごすかまでは、遺伝子には書かれていません。 「もしも」の未来を憂うよりも、「今」できる対策で、家族の笑顔を守ることは十分に可能です。しく理解し、冷静に向き合うことで、不必要な不安を少しでも減らすことができればと願っています。
脊髄小脳変性症の鍼灸外来
一般的な鍼灸院では行わない「体の状態を客観的に捉える方法」です。
足部の温度変化を確認する検査の一例
「診断はついた。けれど、今の自分の状態がどうなのかは、よくわからない」
「薬を続ける以外に、何を意識すればいいのか、誰も教えてくれなかった」
私たちは、こうした行き場のない不安を抱える患者さんと40年間向き合ってきました。
当院では、サーモグラフィで全身の体温分布を可視化します。
脊髄小脳変性症の方では、
ご本人が感じている歩きにくさやふらつきと一致する形で、
手足の温度分布に左右差が見られることがあります。
その一致を一緒に確認することで、
「なぜ今の動きにくさが出ているのか」を整理する手がかりになります。
この検査には専門機器と解析技術が必要なため、一般的な鍼灸院で行われることはまずありません。 感覚や印象だけに頼らず、今の体の状態を落ち着いて見つめたい方のための情報提供の場として、 ご相談をお受けしています。
参考文献
- 子供の病気・遺伝についてきかれたら(診断と治療社)
- 脊髄小悩変性症・多系統萎縮症 Q&A 172(全国SCD・MSA友の会編)
- 脊髄小脳変性症マニュアル決定版!(日本プランニングセンター)
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