脊髄小脳変性症は治るのか?|現在の医学でわかっていること

脊髄小脳変性症|治る可能性はある?標準治療の現状や新薬研究のことを詳しく解説

「先生、この病気は治りますか?」

この質問は、患者さんやご家族から最も多く、そして最も切実な思いで投げかけられる問いです。 なぜ治せない病気があるのか、その答えは非常に複雑で、かつ日進月歩で変化しています。

嘘をついてぬか喜びさせることはできませんが、希望を奪うこともまた真実ではありません。 この記事では、「完治(病気がなくなる)」と「治療(症状を抑える)」の違いを整理し、現在の医学でどこまで戦えるのか、そして未来にどのような光が見えているのかについて解説します。

1. 結論:「完治」はまだ難しいが、「治療」は進化している

まず、現時点での医学的な結論を正直にお伝えします。 大部分の脊髄小脳変性症(遺伝性や多系統萎縮症など)については、一度壊れてしまった神経細胞を元通りにし、病気そのものを完全になくしてしまう「完治(根本的な治療法)」は、現時点では確立されていません。

生物学的に言うと、神経細胞は皮膚や血液と違って、一度死滅すると再生するのが非常に難しい細胞だからです。

しかし、「完治しない=何もできない(不治の病)」というのは大きな間違いです。 病気を消すことはできなくても、進行を遅らせたり、機能を維持したり、あるいは「治るタイプ」を見極めたりすることは、現在の医療でも十分に可能です。

2. まず確認すべき「治るタイプ」の可能性

「脊髄小脳変性症」という診断名は、実はたくさんの病気の総称です。 その中には、原因を取り除くことで、症状が大きく改善したり、進行を止められる「例外的なタイプ」が存在します。

医師はまず、あなたがこのタイプではないかを徹底的に調べます。

治療可能な主なタイプ

  • ビタミンE単独欠乏性失調症(AVED): ビタミンEが不足して神経が障害される稀な病気です。大量のビタミンEを投与することで進行を食い止め、早期であれば症状の回復も期待できます。
  • 自己免疫性小脳失調症(橋本脳症など): 自分の免疫が脳を攻撃してしまうタイプです。ステロイドや免疫グロブリン療法などで炎症を抑えることで、症状が改善することがあります。
  • 二次性運動失調症: アルコール、薬剤、甲状腺の病気などが原因の場合、その原因を取り除くことで改善する可能性があります。

これらを見逃さないために、詳細な血液検査や遺伝子検査が行われます。

3. 現在行われている「標準治療(対症療法)」

では、一般的な進行性のタイプ(多系統萎縮症や脊髄小脳失調症)の場合、どのような治療が行われるのでしょうか。 現在は、症状を和らげ、生活の質(QOL)を保つための「対症療法」が中心となります。

運動失調(ふらつき)への薬

日本で開発された薬が保険適用されています。

  • 甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)誘導体: 注射薬(プロチレリン)や内服薬(セレジスト/タルチレリン)があります。これらは小脳や脳幹の神経を活性化させ、ふらつきや呂律の回りにくさを改善する効果が期待されています。

その他の症状への薬

  • 足の突っ張りには「筋弛緩薬」
  • 手足の震えや固さには「抗パーキンソン病薬」
  • 立ちくらみには「昇圧剤」

このように、困っている症状の一つひとつに対して、個別に薬を組み合わせて対応します。

4. 薬以上に効果がある?「リハビリ」の力

「進行性の病気だから、動いても無駄だ」と思っていませんか? 近年の研究で、リハビリテーションには単なる現状維持以上の効果があることが科学的に証明されつつあります。

集中リハビリの驚くべきデータ

4週間程度の集中的なリハビリを行うことで、運動失調の程度(SARAスコア)が数値として改善し、その効果が半年から1年程度持続することが示されています。 これは、壊れていない残存する神経回路を活用し、機能を引き上げられる可能性があるためです。

最先端技術「ロボットスーツHAL」

装着型サイボーグ「HAL」を用いた治療も注目されています。 脳から筋肉へ送られる微弱な信号を読み取り、動きをアシストすることで、脳に「正しい動き」を学習させ、歩行機能の改善効果が得られることが報告されています。

5. 未来への希望:根本治療に向けた研究

「今は治らない」としても、「未来も治らない」わけではありません。 世界中で根本治療を目指した研究が進んでおり、一部はすでに患者さんへの治験(臨床試験)の段階に入っています。

  • 核酸医薬・遺伝子治療: 遺伝性のタイプ(SCA1, SCA3など)に対して、原因となる異常タンパク質が作られないようにする薬(アンチセンス核酸など)の開発が進んでいます。
  • 幹細胞治療: 間葉系幹細胞(MSC)などを点滴投与し、神経の保護や修復を促す治療です。一部の試験では進行抑制の効果が示唆されています。

これらはまだ研究段階のものが多いですが、着実に「不治の病」から「治療可能な病気」へとフェーズが移行しつつあります。

まとめ

  1. 完治: 多くのタイプで「根本的な完治」はまだ確立されていない。
  2. 例外: ビタミン欠乏や免疫異常など、「治るタイプ」も存在する。
  3. 現状: 薬(対症療法)とリハビリで、症状緩和と機能維持を目指す。
  4. 未来: 遺伝子治療や幹細胞治療など、根本治療の研究は急速に進んでいる。

「治らない」という言葉に打ちのめされる必要はありません。 医学は日々進歩しています。その日が来るまで、今ある機能をリハビリで守り抜き、一日一日を大切に過ごすことが、未来の治療へとつながる架け橋になります。


脊髄小脳変性症の鍼灸外来

一般的な鍼灸院では行わない「体の状態を客観的に捉える方法」です。

脊髄小脳変性症の方の足部の温度分布を確認する様子

足部の温度変化を確認する検査の一例

「診断はついた。けれど、今の自分の状態がどうなのかは、よくわからない」

「薬を続ける以外に、何を意識すればいいのか、誰も教えてくれなかった」

私たちは、こうした行き場のない不安を抱える患者さんと40年間向き合ってきました。


当院では、サーモグラフィで全身の体温分布を可視化します。 脊髄小脳変性症の方では、 ご本人が感じている歩きにくさやふらつきと一致する形で、 手足の温度分布に左右差が見られることがあります。 その一致を一緒に確認することで、 「なぜ今の動きにくさが出ているのか」を整理する手がかりになります。

この検査には専門機器と解析技術が必要なため、一般的な鍼灸院で行われることはまずありません。 感覚や印象だけに頼らず、今の体の状態を落ち着いて見つめたい方のための情報提供の場として、 ご相談をお受けしています。

参考文献

  • 多系統萎縮症の新診断基準とこれからの診療(医学書院)
  • 脊髄小脳変性症のすべて(日本プランニングセンター)
  • 遺伝性脊髄小脳失調症の病態と治療展望(医学書院)

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この記事を書いた人

副院長 / 吉池 美奈子

宮崎県の名門鍼灸一家に生まれる。幼いころから鍼で風邪を治してもらうため、病院に連れていかれる友人をうらやましく思って育つ。「患者さんの1番役に立つ人間になる」を座右の銘とし、誰よりも寄り添いを大切にしながら、難病や神経内科疾患の鍼治療に取り組んでいる。

副院長 / 吉池 美奈子

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宮崎県の名門鍼灸一家に生まれる。幼いころから鍼で風邪を治してもらうため、病院に連れていかれる友人をうらやましく思って育つ。「患者さんの1番役に立つ人間になる」を座右の銘とし、誰よりも寄り添いを大切にしながら、難病や神経内科疾患の鍼治療に取り組んでいる。

副院長 / 吉池 美奈子