
「まさか自分が」 「家族に申し訳ない」
診断を受けたとき、あるいは症状が進んでできないことが増えたとき、頭の中はこの二つの言葉で埋め尽くされてしまうかもしれません。 働き盛りでこの病気と向き合うことになった皆様が感じる喪失感は、言葉にできないほど重いものです。
「病気を受け入れましょう」なんて簡単に言われますが、そんなにすぐに割り切れるものではありません。 今日は、長年多くの患者さんと接してきた立場から、この病気とどう付き合い、どうやって心の平穏と生活の質を守っていくか、少し膝を突き合わせてお話しさせてください。
医学的なデータと、生活の知恵を交えてお伝えします。
1. 「心が弱っている」わけではない

まず、知っておいてほしいことがあります。 あなたが今、落ち込んだり、イライラしたり、涙もろくなったりしているのは、あなたが弱いからではありません。
1-1. 脳の仕組みが関係している
報告によると、脊髄小脳変性症の患者さんの30〜60%程度がうつ状態やうつ病を経験すると言われています。 これには2つの理由があります。
- 反応性のうつ: 歩けなくなる、仕事が続けられないといった喪失体験に対する、人間として当然の心理的反応です。
- 脳の病変による影響: 小脳は運動だけでなく、感情のコントロールにも関わっています(小脳性認知情動症候群)。病気によって脳のブレーキが利きにくくなり、感情が不安定になることがあるのです。
「心がけが悪い」とか「罰が当たった」なんて、自分を責めるのはやめましょう。 それは病気の症状の一つであり、あなたの人間性とは関係ありません。眠れない、食欲がないといった時は、躊躇せず心療内科や精神科を頼ってください。薬で楽になることも多いのです。
2. 「申し訳ない」という言葉の代わりに
家族に対して、つい「ごめん」「申し訳ない」と言っていませんか? 私がこれまで出会ってきた多くの患者さんも、そう口癖のように繰り返していました。しかし、傍で見ていて気づいたことがあります。家族が本当に聞きたいのは、謝罪の言葉ではないということです。
2-1. 家族もまた「当事者」である
家族も、あなたと同じように不安で、傷ついています。 あなたが自分を卑下して「俺なんかのために犠牲になって」と言うことは、家族の献身を否定することにもなりかねません。
2-2. コミュニケーションを変える工夫

言葉が出にくくなる(構音障害)と、話すこと自体が億劫になりますが、黙り込むのが一番よくありません。
- ゆっくり話す: 焦らず、一語一語区切る。
- 道具を使う: 透明文字盤やIT機器(タブレットなど)を早めに導入する。「機械に頼るのは負けだ」なんて意地を張らず、「気持ちを伝えること」を最優先にしましょう。
- 家族に休みを: 妻や夫が疲れているときは、ショートステイ(レスパイトケア)を使って、物理的に休ませてあげるのも優しさです。
3. 生活の質(QOL)は「工夫」で守れる
脊髄小脳変性症と生活の質(QOL)は、必ずしも同じ軌道で進むわけではありません。「治らないから何もしない」のではなく、「今の機能で何ができるか」に視点を切り替えると、景色が変わります。
3-1. リハビリは「現状維持」のための最大の武器
「動かない」ことが一番の敵です。過度な安静は、病気以上に体力を奪う「廃用症候群」を招きます。 4週間程度のリハビリを集中的に行うことで、ふらつきが改善し、その効果が半年以上続くというデータもあります。 「今日はスクワットを10回やった」「近所の公園まで歩いた」。そんな小さな積み重ねが、未来の自分を支えます。
3-2. 道具を味方につける
- 環境: 手すり一本で、トイレが自力で行けるようになります。
- 重り(重錘): 手が震えるときは、手首に少し重りを巻くと、震えが収まって字が書きやすくなることがあります。
これらは恥ずかしいことではなく、生活を楽しむための「相棒」です。
4. 前を向くためのスモールステップ

受容には時間がかかります。 告知直後のショック、否定、怒り、そしてうつ状態。これらを行ったり来たりしながら、人は少しずつ新しい自分になじんでいきます。
- スモールステップ: 遠い未来を憂うより、「今日はおいしいコーヒーを淹れよう」「明日は孫に電話しよう」といった、小さな目標を立ててください。
- 仲間を見つける: 一人で抱え込まず、患者会などで同じ境遇の仲間と話すのも良いでしょう。「辛いのは自分だけじゃない」と思えることが、何よりの力になります。
焦らなくていいんです。 時には立ち止まりながら、それでも一日一日を、私たちなりに丁寧に生きていきましょう。
脊髄小脳変性症の鍼灸外来
一般的な鍼灸院では行わない「体の状態を客観的に捉える方法」です。
足部の温度変化を確認する検査の一例
「診断はついた。けれど、今の自分の状態がどうなのかは、よくわからない」
「薬を続ける以外に、何を意識すればいいのか、誰も教えてくれなかった」
私たちは、こうした行き場のない不安を抱える患者さんと40年間向き合ってきました。
当院では、サーモグラフィで全身の体温分布を可視化します。
脊髄小脳変性症の方では、
ご本人が感じている歩きにくさやふらつきと一致する形で、
手足の温度分布に左右差が見られることがあります。
その一致を一緒に確認することで、
「なぜ今の動きにくさが出ているのか」を整理する手がかりになります。
この検査には専門機器と解析技術が必要なため、一般的な鍼灸院で行われることはまずありません。 感覚や印象だけに頼らず、今の体の状態を落ち着いて見つめたい方のための情報提供の場として、 ご相談をお受けしています。
参考文献
この記事は、以下の資料に基づき作成されました。
- 脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018(南江堂)
- 神経難病領域のリハビリテーション実践アプローチ(メジカルビュー社)
- すべてがわかる神経難病医療(中山書店)
- 神経難病の病態・ケア・支援がトータルにわかる(照林社)
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