脊髄小脳変性症で寝たきりになるまで|進行段階と準備すべきこと

脊髄小脳変性症|発症からどのくらいで寝たきりになる?進行段階を詳しく解説

「将来の見通しが立たないことが、一番怖い」 多くの患者様がそう口にします。

脊髄小脳変性症の進行スピードは、原因となる遺伝子や病型によって劇的に異なります。 平均すると発症から10〜15年という長い経過をたどりますが、数年で介助が必要になるタイプもあれば、20年以上自立生活を続けられるタイプもあります。

まずは、ご自身のタイプがどの時間軸に近いのか、統計的なデータ(目安)を確認してみましょう。

生物学的な視点で見ると、この病気は「今日明日で急に動けなくなる」ものではありません。 そのタイムライン(時間経過)をあらかじめ知っておくことは、恐怖を煽るためではなく、「生活の質を守るための準備」をするために不可欠な地図となります。

今回は、病型ごとの「寝たきりになるまでの期間」の目安と、各段階で具体的に準備すべきことについて解説します。

1. 【病型別】寝たきりになるまでの期間の目安

生物学的に、進行速度を決定づけるのは「小脳以外の神経も巻き込まれるかどうか」です。これによって、大きく2つのパターンに分かれます。

1-1. 進行が比較的速い「多系統萎縮症(MSA)」

日本で最も多い孤発性(遺伝性ではない)のタイプです。 このタイプは、小脳だけでなく自律神経(血圧や排尿の調整)も障害されるため、身体機能の低下が早まる傾向にあります。

  • 車椅子が必要になるまで: 発症から約5年
  • 寝たきり(全介助)になるまで: 発症から約6〜8年

特に、立ちくらみや排尿障害が早期に出現するタイプは、進行がより速い傾向があると報告されています。

1-2. 進行が緩やかな「遺伝性(SCA)」と「皮質性(CCA)」

一方で、遺伝性のタイプや、小脳症状のみが現れるタイプは、MSAに比べて進行が緩やかです。

  • マシャド・ジョセフ病(SCA3):
    • 車椅子まで:約10〜11年
    • 寝たきりまで:MSAより大幅に長く、発症後15〜20年以上生存される方も多くいらっしゃいます。
  • SCA6・皮質性小脳萎縮症(CCA):
    • 進行は非常にゆっくりです。
    • 発症から10年後でも約7割の方が日常生活動作(ADL)が自立しており、寝たきりになるまでの期間はさらに長い(あるいは寝たきりにならず天寿を全うする)可能性があります。

このように、「脊髄小脳変性症=すぐに寝たきり」というのは大きな誤解です。 では、具体的にどのような段階を経て進行していくのか、そのプロセスを見ていきましょう。

2. 進行の3段階と、その時やるべき「準備」

病気の進行は、グラデーションのように徐々に変化しますが、生活への影響度で大きく3つのステージに分けられます。 「その時が来たら」ではなく、「来る前に準備」をしておくことで、ご本人もご家族も慌てずに済みます。

第1段階:初期(発症〜数年)

  • 状態: 歩行時のふらつき、言葉の不明瞭さが現れますが、身の回りのことは自分でできます。
  • 準備すべきこと:
    • 特定疾患(難病)の申請: 医療費の助成を受けられます。
    • 身体障害者手帳の取得: 症状が固定していなくても、進行性の場合は認定されることがあります。早めに主治医に相談しましょう。
    • リハビリの開始: まだ動けるこの時期に「貯筋(筋肉の貯金)」をしておくことが、後の進行を大きく左右します。

第2段階:中期(車椅子への移行期)

  • 状態: 転倒が増え、屋外では車椅子、屋内ではつかまり立ちや這っての移動が必要になります。排尿障害や嚥下(飲み込み)障害が出始めることもあります。
  • 準備すべきこと:
    • 介護保険の申請: 40歳以上であれば特定疾病として介護保険が使えます。ケアマネージャーと相談し、プランを作成します。
    • 住宅改修: 玄関のスロープ、トイレの手すり、段差の解消など。これらは介護保険の補助(住宅改修費支給)を活用できます。
    • 誤嚥対策: 食事の形態を工夫したり、言語聴覚士によるリハビリを取り入れたりします。

第3段階:後期(要介助・寝たきり期)

  • 状態: 自力での移動が困難になり、ベッド上での生活が中心になります。食事や排泄に全介助が必要となる場合があります。
  • 準備すべきこと:
    • 訪問診療・訪問看護の導入: 通院が難しくなる前に、自宅に来てくれる医師や看護師とのつながりを作っておきます。
    • 介護用ベッド・福祉用具のレンタル: 床ずれ防止のマットや、移乗用リフトなどを活用し、介護者の負担を減らします。
    • 意思の確認: 胃ろうや呼吸器の使用について、ご本人の意思を元気なうちに話し合っておくことが大切です(アドバンス・ケア・プランニング)。

3. 「寝たきり」を遠ざけるために今できること

「進行性の病気だから、何をしても無駄」 そう思ってしまうかもしれませんが、生物学的には「使わないことによる廃用(はいよう)」が、病気の進行以上に身体を弱らせることが分かっています。

「廃用症候群」を防ぐ

筋肉や神経は、使わなければ驚くほどのスピードで衰えます。 「転ぶのが怖いから動かない」という生活を続けると、本来ならまだ歩けるはずの期間を、自ら短くしてしまうことになります。

  • 安全な環境でのリハビリ: 手すりや歩行器を使ってでも「自分の足で歩く」時間を確保する。
  • 話す・歌う: 喉の筋肉を使うことで、嚥下機能を維持し、誤嚥性肺炎(寝たきりの大きな原因)を防ぐ。

進行を止める薬はまだありませんが、進行のスピードを緩め、寝たきりになる時期を先延ばしにする力は、あなたの毎日の生活の中にあります。

まとめ

1.MSA(多系統萎縮症): 進行が速く、6〜8年で寝たきりになる目安があるため、早めの環境整備が必要。
2.SCA・CCA: 進行は比較的ゆっくりで、10年以上自立生活を維持できるケースも多い。
3.準備のタイミング: 「困ってから」ではなく、初期のうちに手帳や保険の申請、環境整備を行う。
4.リハビリの継続: 「動かないことによる悪化」を防ぐことが、自立期間を延ばす最大の鍵。

    未来を知ることは怖いことですが、準備さえできていれば、漠然とした不安は「具体的な計画」に変わります。 一人で抱え込まず、医療や福祉の専門家を巻き込んで、チームで病気と向き合っていきましょう。同じ悩みを持つ患者会などの力を借りてください。正しい知識と準備は、必ずご家族の支えとなります。


    脊髄小脳変性症の鍼灸外来

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    脊髄小脳変性症の方の足部の温度分布を確認する様子

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    参考文献

    多系統萎縮症 update(科学評論社)
    脊髄小脳変性症マニュアル決定版!(日本プランニングセンター)
    運動失調の見方、考え方-小脳と脊髄小脳変性症-(中外医学社)


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    この記事を書いた人

    難治性疾患 認定鍼灸師 / 相良 明範

    お医者様の治療が確立されていない家族の難病をきっかけに、鍼灸師になることを志す。一見クールに見られがちだが、優しさは人一倍。患者さんの不安にしっかりと向き合い、一人一人に応じた必要な治療法の提案をしている。独特なコミュニケーション力により、スタッフや患者さんとの厚い信頼関係を築いている。

    難治性疾患 認定鍼灸師 / 相良 明範

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