脊髄小脳変性症31型(SCA31)とは?症状の進行速度と遺伝の特徴

脊髄小脳変性症|日本人に最も多いと言われているSCA31の特徴を詳しく解説

「脊髄小脳変性症31型(SCA31)」

病院でそう告げられたとき、あまりに聞きなれない病名に、足元が崩れるような思いをされたのではないでしょうか。 漢字と数字の羅列、そして「難病」という言葉。不安になるなと言うほうが無理な話です。

誰しも、予期せぬ病名がつくと「これからの人生はどうなるの?」と怖くなるものです。 ですが、どうか少し肩の力を抜いてください。

この「31型」というタイプは、脊髄小脳変性症の中でも日本人に特有で、かつ進行が比較的ゆっくりであるという特徴を持っています。 今日は、この病気がどのようなものなのか、これからの生活で何を大切にすればよいのか、分かりやすくお話しさせてくださいね。

1. 日本人に多い「31型」という病気

まず、この病気がどういうものか、少し整理してみましょう。

1-1. 日本人に見られる特有のタイプ

脊髄小脳変性症の31型は長野県や南九州に患者さんが多い

脊髄小脳変性症にはたくさんの種類(型)がありますが、この「31型(SCA31)」は、実は日本で発見された病型です。海外では報告が少なく、日本を中心とした東アジアに多いタイプです。 特に、長野県や南九州などに患者さんが多い傾向があるそうです。

1-2. 余計な症状が出にくい「純粋小脳型」

この病気は、「純粋小脳型(じゅんすいしょうのうがた)」に分類されます。

難しい言葉ですが、要するに「小脳の症状(ふらつきや喋りにくさ)以外の、余計な症状が出にくい」ということです。 他の型で見られるような、筋肉のこわばりや自律神経のトラブルなどが比較的少ないため、病気としての複雑さは少ないタイプと言えます。

2. どんな症状が出るのでしょうか

主な症状は、小脳がうまく働かなくなることによる「運動失調」です。

2-1. 足元のふらつき(体幹失調)

脊髄小脳変性症の初期は足元のふらつきから始まることが多い

多くの方が最初に感じるのが、歩くときの違和感です。 「お酒を飲んだときのようにふらつく」「自転車に乗るとバランスが取れない」といった症状から始まります。約7割の方が、この歩行障害から気づくと言われています。

2-2. 話しにくさ(構音障害)

次に多いのが、呂律(ろれつ)が回りにくくなる症状です。 「言葉が滑らかに出ない」「酔っ払っているように聞こえる」といった変化が現れます。

2-3. 31型の特徴:目の揺れが少ない

よく似たタイプに「6型(SCA6)」がありますが、31型は6型に比べて「眼振(がんしん:目の揺れ)」があまり目立たないのが特徴です。 また、一部の方では年齢的なものとは別に、聴力の低下(難聴)を伴うことがあるとも言われています。

3. 進行はゆっくり。50〜60代からの付き合い

ここが一番、皆様にお伝えしたい希望の部分です。 この病気は、発症する年齢が遅く、進み方もとても緩やかです。

3-1. 人生後半からの発症

平均発症年齢は50代後半から60代(平均約60歳)です。 働き盛りを過ぎ、子育てもひと段落した頃に症状が出始めることが多いのです。「ただの老化かな?」と思っていたら病気だった、というケースも少なくありません。

3-2. 10年経っても歩ける方が多い

進行のスピードは、他のタイプと比べてもゆっくりです。 データによると、運動機能の悪化は年間でわずか「0.8点(SARAスコア)」程度。 発症から10年経っても、杖を使わずに自力で歩いて生活されている患者さんがたくさんいらっしゃいます。 命に関わるような急激な悪化は稀で、多くの方が天寿を全うできるとされています。

4. 遺伝のこと、家族のこと

「遺伝性」と聞くと、お子さんやお孫さんのことが心配になりますよね。

4-1. 50%の確率で遺伝します

SCA31は「常染色体優性遺伝(じょうせんしょくたいゆうせいいでん)」という形式をとります。 これは、性別に関係なく、親から子へ50%の確率で遺伝子の特徴が受け継がれるということです。

4-2. 「隠れ31型」が多い理由

ただ、必ずしも「親も同じ病気だった」とは限りません。 なぜなら、この病気は発症年齢が遅いため、ご両親が発症する前に他の病気(がんや心臓病など)で亡くなっていたり、症状が軽くて「おばあちゃんは足腰が弱かっただけ」と思われていたりすることがあるからです。 そのため、家族には誰もいない「孤発性」だと思っていたけれど、詳しく調べたら「31型」だった、ということがよくあるのです。

原因は、第16番染色体という場所にある遺伝子の中に、「TGGAA」という5つの文字の並びが、異常に長く繰り返されていることだと分かっています。

5. これからの生活で大切にしたいこと

今の医学では、残念ながら遺伝子を元に戻すことはできません。 ですが、できることはたくさんあります。

5-1. お薬とリハビリで機能を守る

脊髄小脳変性症は薬とリハビリの積み重ねが大切

小脳の働きを助けるお薬(セレジストやヒルトニン)を使いながら、リハビリを続けることがとても大切です。 進行がゆっくりだからこそ、リハビリの効果も長く続きます。 「今日はスクワットをしよう」「お散歩に行こう」。そんな日々の積み重ねが、5年後、10年後のご自身の足腰を支えてくれます。

5-2. 未来への希望

現在、この病気の原因となる異常なRNA(遺伝子のコピー)をターゲットにした新しいお薬の研究が進んでいます。 研究者の方々が、日々懸命に治療法を探してくださっています。

6. まとめ

SCA31は、進行が比較的ゆっくりであることが知られており、長期間自立した生活を送られている方も少なくありません。

「病気だから」と縮こまらず、できる範囲で体を動かし、美味しいものを食べて、一日一日を丁寧に重ねていきましょう。 人生の後半戦、まだまだこれからですよ。

脊髄小脳変性症の鍼灸外来

一般的な鍼灸院では行わない「体の状態を客観的に捉える方法」です。

脊髄小脳変性症の方の足部の温度分布を確認する様子

足部の温度変化を確認する検査の一例

「診断はついた。けれど、今の自分の状態がどうなのかは、よくわからない」

「薬を続ける以外に、何を意識すればいいのか、誰も教えてくれなかった」

私たちは、こうした行き場のない不安を抱える患者さんと40年間向き合ってきました。


当院では、サーモグラフィで全身の体温分布を可視化します。 脊髄小脳変性症の方では、 ご本人が感じている歩きにくさやふらつきと一致する形で、 手足の温度分布に左右差が見られることがあります。 その一致を一緒に確認することで、 「なぜ今の動きにくさが出ているのか」を整理する手がかりになります。

この検査には専門機器と解析技術が必要なため、一般的な鍼灸院で行われることはまずありません。 感覚や印象だけに頼らず、今の体の状態を落ち着いて見つめたい方のための情報提供の場として、 ご相談をお受けしています。

参考文献

この記事は、以下の資料に基づき作成されました。

  • 脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018(南江堂)
  • 脊髄小脳変性症・多系統萎縮症(科学評論社)
  • すべてがわかる神経難病医療(中山書店)
  • 脊髄小脳変性症マニュアル決定版!(日本プランニングセンター)

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この記事を書いた人

副院長 / 吉池 美奈子

宮崎県の名門鍼灸一家に生まれる。幼いころから鍼で風邪を治してもらうため、病院に連れていかれる友人をうらやましく思って育つ。「患者さんの1番役に立つ人間になる」を座右の銘とし、誰よりも寄り添いを大切にしながら、難病や神経内科疾患の鍼治療に取り組んでいる。

副院長 / 吉池 美奈子

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副院長 / 吉池 美奈子

宮崎県の名門鍼灸一家に生まれる。幼いころから鍼で風邪を治してもらうため、病院に連れていかれる友人をうらやましく思って育つ。「患者さんの1番役に立つ人間になる」を座右の銘とし、誰よりも寄り添いを大切にしながら、難病や神経内科疾患の鍼治療に取り組んでいる。

副院長 / 吉池 美奈子