
「歩くときに、なんとなくふらつく」
「言葉が少し話しづらくなってきた」
そんな症状で病院を受診し、「脊髄小脳変性症(せきずいしょうのうへんせいしょう)」という病名を初めて耳にされた方もいらっしゃるかもしれません。 漢字ばかりの難しい名前で、どんな病気なのか想像もつきませんよね。
この病気は、日本国内に約3万人以上の患者さんがいるとされる、国の指定難病です。 「難病」と聞くと怖くなってしまうかもしれませんが、正しく知ることで、漠然とした不安が少しでも和らぐことがあります。
今日は、この病気がどうして起こるのか、どんな症状が出るのか、そして気になる遺伝のことまで、できるだけ専門用語を使わずにわかりやすくお話ししますね。
1. 脊髄小脳変性症ってどんな病気?

私たちの脳の後ろ側にある「小脳(しょうのう)」をご存じでしょうか。 ここは、体のバランスを取ったり、動きをスムーズに調整したりする司令塔の役割をしています。
1-1. 司令塔が少しずつ縮んでしまう
脊髄小脳変性症とは、この「小脳」や、脳と体をつなぐ「脊髄」の神経細胞が、何らかの原因で少しずつ壊れて(変性)、縮んでいってしまう(萎縮)病気の総称です。 「総称」という通り、実は一つの病気ではなく、原因や症状が異なるたくさんの病気の集まりなんですよ。
1-2. 患者さんの数
日本では、関連する「多系統萎縮症(たけいとういしゅくしょう)」を含めると、約3万7,000人の方がいらっしゃると言われています。決して極めてまれな病気というわけではありません。
2. どんな症状が出るの?

一番の特徴は、「運動失調(うんどうしっちょう)」と呼ばれる症状です。 酔っ払った時の動きをイメージしていただくと分かりやすいかもしれません。
2-1. 歩きにくくなる(歩行障害)
- 足を左右に大きく広げて、バランスを取ろうとする。
- まっすぐ歩こうとしても、千鳥足のようにふらふらしてしまう。
- 何もないところで転びやすくなる。
2-2. 話しにくくなる(構音障害)
- 呂律(ろれつ)が回らない。
- 言葉が不明瞭で、相手に聞き返されることが増える。
- 急に大きな声が出たり、話し方が爆発的になったりする。
2-3. 手が使いにくくなる(四肢の失調)
- 字を書こうとすると手が震えて、ミミズ腫れのような字になる。
- お箸がうまく使えない、ボタンがかけにくい。
- コップの水がこぼれそうになる。
このほかにも、タイプによっては「動作が遅くなる(パーキンソン症状)」や「立ちくらみ・おしっこの悩み(自律神経症状)」が出ることもあります。 進行はゆっくりなことが多いですが、人によってスピードはまちまちです。
3. 「遺伝するの?」原因による2つのタイプ

この病気で一番気になるのが、「遺伝」のことではないでしょうか。 実は、全員が遺伝するわけではありません。大きく分けて2つのタイプがあります。
3-1. 孤発性(こはつせい):遺伝しないタイプ
日本人の患者さんの約3分の2(約67%)はこちらのタイプです。 親や兄弟に同じ病気の人はおらず、その人の代で初めて発症します。 代表的なものに「多系統萎縮症(MSA)」や「皮質性小脳萎縮症(CCA)」があります。
3-2. 遺伝性:遺伝するタイプ
残りの約3分の1(約30%)がこちらのタイプです。 親から子へ、50%の確率で遺伝する「常染色体優性遺伝(じょうせんしょくたいゆうせいいでん)」がほとんどです。 日本では「マシャド・ジョセフ病(SCA3)」や「SCA6」、「SCA31」などが多く見られます。
4. なぜ発症するの?(遺伝のメカニズム)
どうして神経が壊れてしまうのでしょうか。 遺伝性のタイプでは、遺伝子の中にある特定の暗号(CAGなどの塩基配列)が、正常よりも異常に長く伸びてしまう(リピート伸長)ことが原因だとわかっています。
この伸びすぎた暗号のせいで、細胞の中に「悪いタンパク質(異常タンパク)」が溜まってしまい、それが神経細胞を壊してしまうと考えられています。 親から子へ受け継がれるときに、この暗号のリピート回数が増えてしまい、親よりも若い年齢で発症したり、症状が重くなったりすることもあります(表現促進現象)。
孤発性の「多系統萎縮症」でも、脳の中に特定のタンパク質が溜まることがわかっていますが、なぜ溜まるのかはまだ研究途中です。
5. 検査と診断、そして治療
病院(神経内科)では、以下のような流れで診断が行われます。
- 問診: 家族に同じ症状の人がいるか、いつから症状が出たかを聞かれます。
- MRI検査: 脳の写真を撮り、小脳や脳幹が縮んでいないかを確認します。多系統萎縮症では、脳の一部に「十字のサイン」が見えることがあります。
- 遺伝子検査: 血液を調べて、遺伝子の異常があるかを確定します(希望される場合)。
5-1. 治療について
残念ながら、今のところ病気そのものを治す特効薬はありません。 ですが、ふらつきを和らげるお薬(セレジストやヒルトニンなど)や、リハビリテーションを行うことで、症状を緩和し、症状の緩和や生活機能の維持を目指すことが可能です。
また、この病気は国の「指定難病」になっており、医療費の助成を受けることができます。 一人で抱え込まず、専門の先生や制度を頼ってくださいね。
脊髄小脳変性症の鍼灸外来
一般的な鍼灸院では行わない「体の状態を客観的に捉える方法」です。
足部の温度変化を確認する検査の一例
「診断はついた。けれど、今の自分の状態がどうなのかは、よくわからない」
「薬を続ける以外に、何を意識すればいいのか、誰も教えてくれなかった」
私たちは、こうした行き場のない不安を抱える患者さんと40年間向き合ってきました。
当院では、サーモグラフィで全身の体温分布を可視化します。
脊髄小脳変性症の方では、
ご本人が感じている歩きにくさやふらつきと一致する形で、
手足の温度分布に左右差が見られることがあります。
その一致を一緒に確認することで、
「なぜ今の動きにくさが出ているのか」を整理する手がかりになります。
この検査には専門機器と解析技術が必要なため、一般的な鍼灸院で行われることはまずありません。 感覚や印象だけに頼らず、今の体の状態を落ち着いて見つめたい方のための情報提供の場として、 ご相談をお受けしています。
参考文献
この記事は、以下の資料に基づき作成されました。
- 脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018(南江堂)
- 神経難病の病態・ケア・支援がトータルにわかる(照林社)
- 脊髄小脳変性症のすべて(日本プランニングセンター)
- 小脳と運動失調(中山書店)
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