
「新しい薬は、いつになったら届くのでしょうか」
診察室で、あるいはご家庭で、この言葉を何度耳にしてきたかわかりません。 生物学の世界では、一つの薬が生まれるまでに長い年月がかかります。しかし、脊髄小脳変性症の治療開発は今、かつてないスピードで「対症療法」から「根本治療」へとフェーズが移行しつつあります。
これまで「治らない」とされていた神経の難病に対して、遺伝子レベルで介入する技術や、細胞そのものを使う再生医療が現実のものとなってきました。
この記事では、現在すでに使える薬から、承認申請が出されたばかりの最新薬、そして未来を変える遺伝子治療まで、その開発状況と実用化の目安について解説します。 ただ待つのではなく、「その時」に備えて希望を持ち続けるための情報としてお読みください。
1. 現在すでに使える「標準治療薬」
まず、今現在(2026年時点)、日本の病院で保険適用として処方されている薬について整理します。 これらは、病気の進行そのものを止めるものではありませんが、神経の働きを助け、症状を和らげる「対症療法薬」です。
脳のスイッチを入れる薬(TRH誘導体)
脊髄小脳変性症の運動失調(ふらつき・呂律不良)に対して、日本で承認されているのは以下の2つです。
- タルチレリン水和物(商品名:セレジスト®): 日本で開発された世界初の飲み薬です。脳内の神経伝達物質(アセチルコリンやドパミンなど)の放出を促し、弱った神経回路を活性化させることで、運動機能を改善します。
- プロチレリン酒石酸塩(商品名:ヒルトニン®): こちらは注射薬です。点滴や筋肉注射で投与され、セレジストと同様に運動失調の改善に用いられます。
これらに加え、足のつっぱりには筋弛緩薬、パーキンソン症状にはレボドパ製剤などが、症状に合わせて処方されています。
2. 実用化目前! 承認申請中の「再生医療」
今、患者さんと医療者が最も注目しているのが、病気の進行を抑える効果が期待される「再生医療」の分野です。
間葉系幹細胞(MSC)製品「Stemchymal®」
これは、脂肪組織から取り出した「間葉系幹細胞」という細胞を、点滴で体内に戻す治療法です。 幹細胞が神経を守る物質を出し、壊れていく神経細胞を保護することで、病気の進行そのものを遅らせる(疾患修飾療法)効果が期待されています。
- いつから使える?: 日本国内での臨床試験(第II相試験)の結果に基づき、2025年に医薬品製造販売の承認申請が提出されました。 「希少疾病用再生医療等製品」という特別な指定を受けているため、審査が優先的に進められます。順調にいけば、脊髄小脳失調症に対する世界初の幹細胞製剤として、近い将来、臨床現場に登場する可能性があります。
3. 開発最終段階にある「新薬」たち
再生医療以外にも、飲み薬としての新薬開発も最終段階に入っています。
より強力なTRH誘導体「ロバチレリン」
現在使われている「セレジスト」よりも、さらに強力な作用を持つ新しい薬です。
- 現状: 一度行われた試験(第III相)では全体での決定的な差は出ませんでしたが、重症の方(SARAスコア15点以上)に限ると明らかな改善効果が見られました。 これを受け、2025年3月から追加の最終試験(第III相試験)が始まっています。これが成功すれば、3つ目の標準治療薬として承認される道が開かれます。
ALS薬の進化版「トロリルゾール」
ALS(筋萎縮性側索硬化症)の薬を改良したものです。
- 現状: 歩行機能の改善などの効果が示され、現在、米国食品医薬品局(FDA)への優先審査申請が進められています。海外で承認されれば、日本への導入も加速することが期待されます。
4. 未来の本命「遺伝子治療・核酸医薬」
さらにその先、2030年代に向けて開発が進んでいるのが、原因そのものを狙い撃ちにする「根本治療」です。
悪いタンパク質を作らせない(ASOなど)
遺伝性のタイプ(SCA3/マシャド・ジョセフ病やSCA1など)は、遺伝子の設計図ミスによって「毒性のあるタンパク質」が作られることが原因です。 現在開発中の「アンチセンス核酸(ASO)」などは、この設計図に蓋をして、毒性タンパク質が作られるのを根本からブロックします。
- 現状: 海外を中心に、患者さんを対象とした臨床試験(第1/2a相)が進行中です。
既存薬の可能性(ドラッグ・リポジショニング)
まったく新しい薬を作るのではなく、すでに他の病気で使われている安全な薬を転用する研究も進んでいます。
- L-アルギニン: アミノ酸の一種。SCA6などへの効果を確認中。
- バレニクリン: 禁煙補助薬。SCA3の歩行障害への効果が報告されています。
- コエンザイムQ10: 多系統萎縮症に対し、大量投与する治験が行われています。
まとめ
- 現在: 「セレジスト」などで症状を緩和し、機能を維持する時期。
- 直近の未来: 再生医療製品(Stemchymal®)が2025年に申請済み。承認されれば、進行抑制の新たな選択肢となる。
- 数年後: ロバチレリンなどの新薬が追加される可能性が高い。
- 将来: 遺伝子治療による根本的解決を目指して研究が進んでいる。
「新薬が出るまで待つ」のではなく、「新薬が出た時に、その効果を最大限受け取れる体を作っておく」ことが大切です。 今のリハビリやケアは、未来の新薬を迎えるための準備期間でもあります。希望を捨てず、今の機能を大切に守っていきましょう。
脊髄小脳変性症の鍼灸外来
一般的な鍼灸院では行わない「体の状態を客観的に捉える方法」です。
足部の温度変化を確認する検査の一例
「診断はついた。けれど、今の自分の状態がどうなのかは、よくわからない」
「薬を続ける以外に、何を意識すればいいのか、誰も教えてくれなかった」
私たちは、こうした行き場のない不安を抱える患者さんと40年間向き合ってきました。
当院では、サーモグラフィで全身の体温分布を可視化します。
脊髄小脳変性症の方では、
ご本人が感じている歩きにくさやふらつきと一致する形で、
手足の温度分布に左右差が見られることがあります。
その一致を一緒に確認することで、
「なぜ今の動きにくさが出ているのか」を整理する手がかりになります。
この検査には専門機器と解析技術が必要なため、一般的な鍼灸院で行われることはまずありません。 感覚や印象だけに頼らず、今の体の状態を落ち着いて見つめたい方のための情報提供の場として、 ご相談をお受けしています。
参考文献
- 神経内科2025特集Ⅰ多系統萎縮症update(科学評論社)
- 小脳と運動失調(中山書店)
- 脳神経内科2025特集Ⅱ脊髄小脳変性症・多系統萎縮症(科学評論社)
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