
「病院に行っても、薬をもらって様子を見るだけ」 「進行を止める治療はないと言われた」
診断を受けた直後、現代医学の限界に直面し、無力感を感じてしまう患者さんは少なくありません。 しかし、生物学の視点から見ると、この領域の景色はここ数年で劇的に変わりつつあります。
これまでは症状を和らげる「対症療法」しかありませんでしたが、現在は遺伝子のメカニズムに直接働きかける「根本治療」の研究が、かつてないスピードで進んでいます。
この記事では、今すぐ受けられる「標準治療(薬・リハビリ)」の効果と、実用化が迫る「最新治療(遺伝子・幹細胞)」の動向について解説します。 ただ待つのではなく、今できる最善の手を打ちながら、未来の希望に備えましょう。
1. 今すぐできる標準治療(対症療法)
現在、保険適用で受けられる治療の基本は、症状を緩和して生活の質(QOL)を維持する「対症療法」です。 「治らないなら飲んでも意味がない」と思わず、まずは今の機能を底上げすることが重要です。
日本発の治療薬「タルチレリン(セレジスト)」
世界初の経口SCD治療薬として日本で開発されたのが「タルチレリン水和物(商品名:セレジスト)」です。 これは「甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)」の誘導体です。生物学的に簡単に言うと、脳内の神経伝達物質(アセチルコリンやドパミンなど)の放出を促し、神経細胞の働きを調整・活性化する方向に作用すると考えられています。 これにより、ふらつきや呂律の回りにくさといった運動失調を改善する効果が認められています。
症状ごとの細かい調整
この病気は小脳以外の症状も併発することが多いため、それぞれの症状に合わせた薬が処方されます。
- パーキンソン症状(手足の震え・固さ): L-ドパ製剤など
- 自律神経症状(立ちくらみ・排尿障害): 昇圧剤や排尿改善薬
- 足のつっぱり(痙縮): 筋弛緩薬
これらを細かく調整することで、日常生活の「動きにくさ」を減らすことができます。
2. 薬と同等以上に重要な「リハビリテーション」
「リハビリは治療ではない」と思っていませんか? 近年の研究では、リハビリは薬剤と同等、あるいはそれ以上に重要な「治療」と位置づけられています。
集中リハビリの科学的効果
4週間程度の集中的なリハビリを行うことで、運動失調の評価スケール(SARA)が改善し、その効果が半年から1年程度持続することがデータで示されています。 これは、壊れていない神経回路を活用し、脳に新しい動かし方を再学習させるプロセスです。
サイボーグ型ロボット「HAL®」
今、最も注目されているのが、装着型サイボーグ「HAL(ハル)」を用いた治療です。 HALは、脳から筋肉へ送られる微弱な電気信号(動こうとする意思)を読み取り、動作をアシストします。 「自分の意思で動けた」という感覚を脳にフィードバックすることで、神経系の再学習(ループ)を促し、歩行機能を改善させる画期的な治療法です。
3. 実用化が迫る「最新治療」の研究動向
そして今、世界中で開発が進んでいるのが、病気の進行そのものを止める「疾患修飾療法(根本治療)」です。
① 遺伝子レベルの治療(核酸医薬)
遺伝性のタイプ(SCA1, SCA3など)に対して、原因となる「異常なタンパク質」が作られないようにする研究が進んでいます。
- アンチセンス核酸(ASO): 異常な設計図(RNA)に蓋をして、毒性のあるタンパク質の製造をストップさせる薬です。
- 遺伝子治療: ウイルスベクターを使って、神経を守る遺伝子や、ゴミ(異常タンパク)を掃除する遺伝子を脳内に届ける技術です。
これらは動物実験や初期の治験(臨床試験)が進んでおり、根本治療への大きな一歩となっています。
② 幹細胞治療(再生医療)
失われた神経を補ったり、守ったりする治療です。 特に「間葉系幹細胞(MSC)」を用いた治療が注目されています。これは、点滴などで投与した幹細胞が神経保護因子を出し、神経細胞の死滅を防ぐ効果が期待されています。 多系統萎縮症(MSA)やSCAを対象とした臨床試験が行われており、日本でも実用化に向けた動きが活発です。
③ 既存薬の転用(ドラッグ・リポジショニング)
すでに他の病気で使われている薬が、SCDに効くのではないかという研究も進んでいます。これらの治療はまだ研究・治験段階のものが多く、すべての患者さんに適用できるわけではありませんが、疾患の自然経過を変える可能性を持つ選択肢として注目されています。
- リルゾール(ALS治療薬): 神経毒性を抑える効果
- バレニクリン(禁煙補助薬): 歩行障害の改善効果
- コエンザイムQ10大量療法: MSAの一部に対する効果
4. 「治るタイプ」を見逃さない
最後に忘れてはならないのが、「治療可能な特定のタイプ」の存在です。
- ビタミンE単独欠乏性失調症(AVED): ビタミンEの大量投与で進行停止・改善が可能。
- 自己免疫性小脳失調症: 免疫治療(ステロイドなど)で改善が可能。
これらは早期発見・早期治療が鍵となります。診断時にしっかり検査を受けておくことが大切です。
まとめ
- 標準治療: 「セレジスト」などの薬で神経を活性化し、症状を緩和する。
- リハビリ: 「HAL」などの最新機器や集中リハビリは、機能維持に強力な効果がある。
- 最新研究: 「遺伝子治療」や「幹細胞治療」など、進行を止める治療の実用化が近づいている。
「今はまだ完治しない」としても、手をこまねいている必要はありません。 標準治療とリハビリで今の機能を最大限に守りながら、最新治療の到着を待つ。それが、今私たちにできる最も前向きな戦略です。
脊髄小脳変性症の鍼灸外来
一般的な鍼灸院では行わない「体の状態を客観的に捉える方法」です。
足部の温度変化を確認する検査の一例
「診断はついた。けれど、今の自分の状態がどうなのかは、よくわからない」
「薬を続ける以外に、何を意識すればいいのか、誰も教えてくれなかった」
私たちは、こうした行き場のない不安を抱える患者さんと40年間向き合ってきました。
当院では、サーモグラフィで全身の体温分布を可視化します。
脊髄小脳変性症の方では、
ご本人が感じている歩きにくさやふらつきと一致する形で、
手足の温度分布に左右差が見られることがあります。
その一致を一緒に確認することで、
「なぜ今の動きにくさが出ているのか」を整理する手がかりになります。
この検査には専門機器と解析技術が必要なため、一般的な鍼灸院で行われることはまずありません。 感覚や印象だけに頼らず、今の体の状態を落ち着いて見つめたい方のための情報提供の場として、 ご相談をお受けしています。
参考文献
- すべてわかる神経難病医療(中山書店)
- 運動失調のみかた、考えかた‐小脳と脊髄小脳変性症‐(中外医学社)
- 脳神経内科2025特集Ⅱ脊髄小脳変性症(科学評論社)
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