
「最近、何もないところでつまずくようになった」 「お箸がうまく使えない、字が書きにくい」
身体に異変を感じた時、不安な気持ちを抱えたまま、どの病院に行けばいいのか迷ってしまう方は少なくありません。 生物学的に見ると、脊髄小脳変性症の診断は「パズル」のようなものです。一つの検査でポンと答えが出るわけではなく、いくつかのピース(検査結果)を組み合わせて、他の可能性を消去しながら正解を導き出します。
この記事では、脊髄小脳変性症の確定診断に至るまでの具体的な検査の流れ、受診すべき診療科、そして医師がどこを見て判断しているのかについて解説します。
何が行われるかを知っていれば、診察室での不安は少しだけ軽くなるはずです。
1. どこを受診する?最初のステップ
まずは「何科に行けばいいのか」という疑問から解決しましょう。 ふらつきや手の震えがある場合、専門となるのは「神経内科(脳神経内科)」です。 整形外科や耳鼻科ではありません。脳と神経の専門家に見てもらうことがスタートラインです。
診察室で行われること(問診)
医師はまず、あなたの身体の歴史(病歴)を聞き取ります。これは単なるおしゃべりではなく、診断のための重要なデータ収集です。
- 発症の様子: 「いつ頃から」「急にか、ゆっくりか」
- 生活歴: 「お酒をたくさん飲むか」「薬を飲んでいるか」(中毒性の除外)
- 家族歴: 「親や兄弟、親戚に似た症状の人はいないか」
特に「家族歴」は、この病気が「遺伝性」か「孤発性(遺伝しない)」かを見分けるための、生物学的に最も重要な手がかりとなります。
2. 医師の手による「神経学的診察」
機械を使う前に、医師がハンマーを使ったり、動きを見たりする診察があります。 一見不思議な動きに見えますが、これによって「どの神経系に機能の乱れが出ているか」を推測しています。
小脳症状のチェック
- 指鼻試験: 自分の指で鼻の頭を正確に触れるか。
- 踵膝(しょうしつ)試験: 仰向けで、踵(かかと)を反対の膝に沿ってスムーズに動かせるか。
- 歩行: 一直線の上を継ぎ足で歩けるか、ふらつかないか。
その他の症状のチェック
小脳以外のダメージがないかも確認します。 例えば、動作が遅くなる「パーキンソン症状」や、立ちくらみなどの「自律神経症状」があれば、それは単純な小脳変性症ではなく、進行が速い「多系統萎縮症(MSA)」である可能性が出てくるからです。
3. 決定的な証拠を見る「画像検査(MRI)」
診断において最も重要なのが、脳の形を見る画像検査(MRI)です。 私たちの脳は、使われない細胞が脱落して縮む(萎縮する)という性質があります。萎縮の評価はMRIでも難しく、初期には病的変化なのか加齢によるものか判断がつかないケースもあります。
どこが縮んでいるかを見る
- 小脳だけが縮んでいる: → 遺伝性のSCA6、SCA31、あるいは皮質性小脳萎縮症の可能性が高い(進行は比較的ゆっくり)。
- 脳幹(命の維持に関わる部分)も縮んでいる: → 多系統萎縮症(MSA)の可能性が高い。
特徴的なサイン「十字サイン」
多系統萎縮症の場合、脳幹(橋という部分)に十字の形をした白い影が映ることがあります。 これを「Hot cross bun sign(十字サイン)」と呼び、診断のための強力な証拠となります。
また、MRIで変化が出る前の段階でも、脳の血流を見る「SPECT検査」を行うことで、早期に機能低下を発見できることがあります。
4. 「治せる病気」を除外する(血液検査)
いきなり「難病です」と診断するわけではありません。 その前に、「脊髄小脳変性症に似ているけれど、治療で治る病気」ではないかを徹底的に確認します。これを「除外診断」と言います。
血液検査でチェックするもの
- ビタミン欠乏: ビタミンB1、B12、Eなどが不足すると、ふらつきが出ることがあります。
- ホルモン異常: 甲状腺機能低下症など。
- アルコール中毒: 長期間の飲酒による小脳萎縮。
もしこれらが原因であれば、ビタミン剤の投与や生活改善で症状が劇的に良くなる可能性があります。 だからこそ、血液検査は決して省略できないプロセスなのです。
5. 最終確認としての「遺伝子検査」
家族歴がある場合や、症状から特定のタイプが疑われる場合、最終的な確定診断として遺伝子検査が行われます。
- 対象: 日本で多いマシャド・ジョセフ病(SCA3)、SCA6、SCA31など。
- 方法: 通常の採血(血液)で行います。
- 費用: 主要な病型については保険適用となります。
ただし、遺伝子情報は生涯変わらないものであり、血縁者にも関わるため、実施前には専門家による遺伝カウンセリングを受けることが推奨されています。
まとめ:診断までのフローチャート
医師の頭の中では、以下のような順序で診断が進められています。
- 診察: 「運動失調(ふらつき)」があることを確認する。
- 除外: 血液検査などで「治せる病気(ビタミン不足など)」ではないことを確認する。
- 分類: MRIや家族歴からタイプを絞り込む。
- 遺伝性疑い → 遺伝子検査へ
- 孤発性疑い → 自律神経症状や脳幹萎縮があれば「多系統萎縮症」、なければ「皮質性小脳萎縮症」と診断
診断名がつくことは怖いことかもしれません。 しかし、正体がわかることで、初めて「適切なリハビリ」や「利用できる制度(難病申請など)」、そして「将来への対策」が見えてきます。 早期発見は、選択肢を広げるための最初の一歩です。
脊髄小脳変性症の鍼灸外来
一般的な鍼灸院では行わない「体の状態を客観的に捉える方法」です。
足部の温度変化を確認する検査の一例
「診断はついた。けれど、今の自分の状態がどうなのかは、よくわからない」
「薬を続ける以外に、何を意識すればいいのか、誰も教えてくれなかった」
私たちは、こうした行き場のない不安を抱える患者さんと40年間向き合ってきました。
当院では、サーモグラフィで全身の体温分布を可視化します。
脊髄小脳変性症の方では、
ご本人が感じている歩きにくさやふらつきと一致する形で、
手足の温度分布に左右差が見られることがあります。
その一致を一緒に確認することで、
「なぜ今の動きにくさが出ているのか」を整理する手がかりになります。
この検査には専門機器と解析技術が必要なため、一般的な鍼灸院で行われることはまずありません。 感覚や印象だけに頼らず、今の体の状態を落ち着いて見つめたい方のための情報提供の場として、 ご相談をお受けしています。
参考文献
- 小脳と運動失調(中山書店)
- 運動失調の見方、考え方-小脳と脊髄小脳変性症-(中外医学社)
- 脊髄小脳変性症のすべて(日本プランニングセンター)
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