
「親は70代で発症したのに、自分は50代で足がおかしくなった」
「還暦を過ぎてからの発症なら、進行はゆっくりだと聞いたけれど本当か」
診断を受けた時、あるいは疑いを持った時、ご自身の年齢と病気の進行スピードの関係について不安になる方は非常に多いです。
生物学的な視点から見ると、脊髄小脳変性症の発症年齢は、単なる「老化」ではありません。それは、その人の体内でどの遺伝子やタンパク質がエラーを起こしているかを示す、重要な「分類コード」のようなものです。
一般的に、日本では遺伝性が約30%、遺伝しない孤発性が約65%を占めます。
そして、どの年代で発症したかによって、疑われる病気のタイプ(病型)と、その後の進行速度の見通しは大きく異なります。
この記事では、特に相談の多い「50代・60代」での発症に焦点を当て、病型ごとの特徴と進行のリアルについて解説します。
1. 年代による傾向の全体像
まず、大きな地図を見てみましょう。
脊髄小脳変性症は、一般的に以下のような傾向があります。
- 若年発症(30〜40代): 遺伝性の確率が高い
- 中年〜高齢発症(50代以降): 孤発性(遺伝しない)の確率が高い
しかし、これはあくまで「確率」の話です。
50代、60代という年齢は、進行が比較的速いタイプと、非常にゆっくりなタイプが混在する、いわば「分岐点」となる年代です。
あなたがどのタイプに当てはまるかで、これからの10年、20年の景色は全く違ったものになります。
まずは、人生の半ばである50代で発症しやすい、対照的な2つのタイプについて見ていきましょう。
2. 【50代の発症】進行速度の分かれ道
50代の発症は、日本で最も多い孤発性の「多系統萎縮症」と、遺伝性の中では比較的発症が遅いタイプの発症ピークが重なります。
2-1. 注意が必要な「多系統萎縮症(MSA)」
日本で最も頻度が高いタイプです。遺伝性はなく(孤発性)、平均発症年齢は55〜60歳とされています。
- 特徴: 小脳のふらつきに加え、パーキンソン症状(動きが遅い・固い)や、自律神経障害(立ちくらみ・排尿障害)を伴います。
- 進行: 残念ながら進行は比較的速く、発症から車椅子生活になるまで平均約5年というデータがあります。
生物学的に見ると、小脳だけでなく脳の複数の系統が同時にダメージを受けるため、全身の機能低下が早まるのです。
2-2. 進行が緩やかな「SCA6」とその他のタイプ
一方で、同じ50代発症でも遺伝性の「SCA6(脊髄小脳失調症6型)」であれば、話は変わります。
- SCA6: 平均発症は40代後半〜50代。症状は純粋なふらつきが主で、進行は非常に緩やかです。生命予後も良好です。
- SCA36: 西日本に多いタイプ。50代前半で発症し、10年ほど経過すると舌や手足の筋肉が痩せてくる特徴があります。
- マシャド・ジョセフ病(SCA3): 日本で最も多い遺伝性ですが、タイプによっては50代以降に発症し、末梢神経障害(しびれ等)が目立つことがあります。
このように、同じ50代の発症でも「5年で車椅子」のタイプもあれば、「10年後も歩いている」タイプもあります。
では、さらに年齢が上がった60代での発症はどうでしょうか? 実はここには「日本人に特有の事情」が隠されています。
3. 【60代の発症】「ゆっくり」なタイプが多い理由
60代以降の発症では、老化によるふらつきと混同されがちですが、明確な病型が存在します。ここでのキーワードは「日本独自の遺伝子」です。
3-1. 日本人特有の「SCA31」
遺伝性SCDの中で比較的多い「SCA31」は、日本人に特有の病型です。
- 特徴: 平均発症年齢は58〜61歳。他の遺伝性タイプに比べて高齢で発症するのが最大の特徴です。
- 進行: SCA6と同様に進行は非常に緩やかで、発症から10年経っても杖を必要としない方もいます。
重要なのは、「高齢発症のため、親が発症する前に亡くなっていたりして、遺伝性だと気づかれないケースがある」ということです。一見、孤発性に見えても、実はこのSCA31である可能性があります。
3-2. 孤発性の「皮質性小脳萎縮症(CCA)」
遺伝性ではないタイプでも、60代以降に診断されることが多いのがCCAです。
- 特徴: 多系統萎縮症とは異なり、自律神経症状などは目立たず、純粋に小脳症状のみが現れます。
- 進行: 進行は遅く、発症10年後でも予後は比較的良好です。
3-3. 似て非なる病気「PSP-C」に注意
60代後半(平均66〜69歳)でふらつきが出た場合、「進行性核上性麻痺の小脳型(PSP-C)」という別の病気の可能性もあります。
初期は脊髄小脳変性症と区別がつきにくいですが、経過とともに目の動きにくさなどが現れます。
このように、60代発症の多くは進行が緩やかですが、油断はできません。
特に遺伝性の場合、「なぜ親よりも私の方が早く(あるいは遅く)発症したのか?」という疑問には、遺伝子レベルの明確な法則が存在します。
4. 親子で発症年齢が違う理由(遺伝子のリピート数)
「親は70代だったのに、自分は50代で発症した。進行も速いのではないか?」
この不安には、生物学的な根拠があります。
4-1. CAGリピート数と「表現促進現象」
多くの遺伝性脊髄小脳変性症の原因は、遺伝子の中にある特定の配列(CAGリピートなど)が、異常に長く繰り返されることにあります。
この「繰り返しの回数(リピート数)」には、以下の法則があります。
- リピート数が長いほど、発症年齢が若くなる
- リピート数が長いほど、進行が速くなる傾向がある
遺伝子が親から子へ受け継がれる際、このリピート回数がさらに増えてしまうことがあります。その結果、子世代の方が発症が早まり、症状が重くなる現象を「表現促進現象」と呼びます。
4-2. 逆もまた真なり
逆に言えば、50代・60代と高齢になってから発症した遺伝性タイプの方は、リピート数が比較的少なく、進行もマイルドである可能性が高いと言えます(もちろん個人差はあります)。
「発症してしまった」という事実は変えられませんが、「どのくらいのスピードで進むか」は、ある程度予測ができるのです。
5. まとめ
50代・60代の発症について、生物学的なデータを整理しました。
| 年代 | 注意すべき主な病型 | 特徴 |
| 50代 | 多系統萎縮症 (MSA) | 進行が速い。自律神経症状に注意。 |
| SCA6 | 進行がゆっくり。純粋な小脳症状。 | |
| 60代 | SCA31 | 日本特有。高齢発症で進行緩やか。 |
| 皮質性小脳萎縮症 | 進行が遅い。予後良好。 |
- 50代発症: 「多系統萎縮症」か「遺伝性の緩徐進行型」かの見極めが重要。
- 60代発症: 一般的に進行はゆっくりなタイプが多いが、他の疾患との鑑別が必要。
- 遺伝の法則: 高齢発症であるほど、遺伝子のリピート数は少なく、進行は緩やかな傾向がある。
「もう年だから」と諦める必要はありません。むしろ、進行が緩やかなタイプであれば、これからの対策次第で、健康寿命を大きく延ばせる可能性があります。
ご自身の体の状態を正しく知り、客観的なデータに基づいて対策を立てることが、不安を払拭する一番の近道です。
脊髄小脳変性症の鍼灸外来
一般的な鍼灸院では行わない「体の状態を客観的に捉える方法」です。
足部の温度変化を確認する検査の一例
「診断はついた。けれど、今の自分の状態がどうなのかは、よくわからない」
「薬を続ける以外に、何を意識すればいいのか、誰も教えてくれなかった」
私たちは、こうした行き場のない不安を抱える患者さんと40年間向き合ってきました。
当院では、サーモグラフィで全身の体温分布を可視化します。
脊髄小脳変性症の方では、
ご本人が感じている歩きにくさやふらつきと一致する形で、
手足の温度分布に左右差が見られることがあります。
その一致を一緒に確認することで、
「なぜ今の動きにくさが出ているのか」を整理する手がかりになります。
この検査には専門機器と解析技術が必要なため、一般的な鍼灸院で行われることはまずありません。 感覚や印象だけに頼らず、今の体の状態を落ち着いて見つめたい方のための情報提供の場として、 ご相談をお受けしています。
参考文献
- 多系統萎縮症の新診断基準とこれからの診療 医学書院
- 神経難病のすべて 新興医学出版社
- すべてわかる神経難病医療 中山出版社
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