網膜色素変性症|最新の治療法

網膜色素変性症(RP)および関連する遺伝性網膜変性疾患に対する最新の治療法・研究開発は、「遺伝子治療」「再生医療」「人工視覚」「最新の薬物治療」という4つの最前線(フロントライン)で急速に進展しています。

1. 遺伝子治療(Gene Therapy)

特定の原因遺伝子に対する正常遺伝子の補充や、視細胞の保護・視能再建を図る最先端の治療アプローチです。

正常遺伝子補充療法

原因遺伝子(RPE65)変異に対するAAVベクターを用いた遺伝子治療薬(ボレチジーン ネパルボベック/商品名:ルクスターナ)が実用化・承認されています。

X連鎖網膜色素変性で頻度の高いRPGR遺伝子変異や、PDE6B遺伝子変異を対象としたAAVベクターによる遺伝子補充治療の臨床試験(第I/II/III相治験)が実施され、視野や網膜感度の改善が報告されています。

視細胞保護遺伝子治療

神経栄養因子(hPEDF)を発現させるベクター(SIV-hPEDF)を網膜下に投与し、視細胞の死滅を抑える医師主導治験(九州大学・宮崎大学等)が進められています。

オプトジェネティクス(光遺伝学)

視細胞が消失した末期患者に対して、残存する網膜神経節細胞等に光受容タンパク質(チャネルロドプシン等)の遺伝子を導入し、光刺激ゴーグルを併用して視覚を再建する国際臨床試験(PIONEER試験等)が行われ、物の認識などの視能回復が確認されています。

ゲノム編集技術(CRISPR/Cas9)

病的変異を含むゲノム局所を直接修復・編集する根治的な「変異置換ゲノム編集」などの基礎・前臨床研究が展開されています。

2. 再生医療(iPS細胞・ES細胞移植)

多能性幹細胞から誘導した網膜組織や細胞を移植し、失われた視機能を再建・維持する治療法です。

iPS細胞由来網膜シート移植

神戸アイセンター病院等において、末期の網膜色素変性患者を対象に、iPS細胞から作製した網膜オルガノイド(網膜シート)を移植する臨床研究・治験が実施されています。

神経ネットワークの再建と細胞保護

移植された視細胞が患者側の双極細胞と新たなシナプスを形成して光信号を伝える機能再建や、タンパク質供給等の保護効果が確認されています。また、網膜色素上皮(RPE)不全を伴う病態へのRPE細胞移植の適応拡大も進んでいます。

3. 人工視覚・人工網膜(Artificial Vision / Retinal Prosthesis)

視細胞が消失した患者の視路に残存する神経細胞を電気刺激し、疑似光覚(ホスフェン)を得て視能を再建する技術です。

網膜上・網膜下刺激型

欧米では網膜上刺激型の「Argus II」や網膜下刺激型の「Alpha IMS」などが実用化・認可されてきました。

脈絡膜上経網膜刺激(STS)

日本独自開発のSTS方式(眼鏡型カメラの映像を皮下埋植装置から脈絡膜上の電極へ送信して電気刺激を行うシステム)の臨床試験が行われ、歩行や障害物弁別の改善、および電気刺激自体による神経保護・活性化効果が認められており、治験に向けた準備が進んでいます。

4. 最先端の薬物治療(全身・局所アプローチ)

網膜色素変性症に共通する病態(小胞体・酸化ストレス、エネルギー代謝低下、神経炎症)を標的とした内服薬・注射薬の開発・臨床試験が世界各地で進んでいます。

抗酸化治療(N-アセチルシステイン:NAC)

グルタチオン前駆物質であるNACの内服試験(Phase I/II)において、視力や網膜感度の改善傾向が報告されています。

エネルギー代謝改善・ATP保持:

視細胞のエネルギー不足(細胞飢餓)を防ぐため、ATP分解を抑えるVCP ATPase阻害薬(KUS121)や、代謝経路を促す分岐鎖アミノ酸(BCAA:ロイシン等)の臨床試験(京都大学等)が進められています。

神経保護・抗炎症

カルシウム拮抗薬(ニルバジピン)による網膜感度低下の遅延効果 や、過剰なマイクログリアの活性化(神経炎症)を抑えるミノサイクリンの内服治験が行われています。

遺伝子診断と疾患レジストリ(精密医療の基盤)

次世代シークエンサーを用いた遺伝子解析コンソーシアム(JEGC)や日本網膜色素変性レジストリ(JRPRP)の構築により、日本人患者の主要原因遺伝子(EYS, USH2A, RPGR, RHO, RP1等)や病態経過の解明が進んでおり、遺伝子治療をはじめとする先端医療への適切な適応選定の基盤となっています。

この記事を書いた人

副院長 / 吉池 美奈子

宮崎県の名門鍼灸一家に生まれる。幼いころから鍼で風邪を治してもらうため、病院に連れていかれる友人をうらやましく思って育つ。「患者さんの1番役に立つ人間になる」を座右の銘とし、誰よりも寄り添いを大切にしながら、難病や神経内科疾患の鍼治療に取り組んでいる。

副院長 / 吉池 美奈子

この記事を書いた人

副院長 / 吉池 美奈子

宮崎県の名門鍼灸一家に生まれる。幼いころから鍼で風邪を治してもらうため、病院に連れていかれる友人をうらやましく思って育つ。「患者さんの1番役に立つ人間になる」を座右の銘とし、誰よりも寄り添いを大切にしながら、難病や神経内科疾患の鍼治療に取り組んでいる。

副院長 / 吉池 美奈子