
体の動きに違和感を覚えたり、ご家族の様子がいつもと違うと感じたりしていませんか?
この病気はゆっくりと進行するため、早期発見と一人ひとりの状態に合わせた適切な治療・ケアがとても大切です。
本記事では、日常の気になるサインから最新の治療の選択肢まで、専門的な知見をもとに整理しました。
病気への理解を深め、これからの生活を前向きに送るためのヒントにしてください。
パーキンソン病とは?病気の概要と日本の患者数
パーキンソン病はゆっくり進行する病気
パーキンソン病は、アルツハイマー病に次いで多く見られる神経の病気として広く知られています。
主に50代から60代で発症することが多く、数年から数十年という長い時間をかけて、ごくゆっくりと進行していく特徴を持っています。
脳の特定の神経細胞が減少することで、体にさまざまな不調が現れる病気であり、一人ひとりの進行度合いや症状の現れ方が大きく異なるため、それぞれの状態に合わせたケアが必要となります。

日本における患者数と発症しやすい年齢
現在、日本には約15万人のパーキンソン病の患者さんがいると推定されています。
これは国民10万人あたり100〜180人に相当する割合であり、決して珍しい病気ではありません。
発症には加齢が深く関係しているため、高齢化が急速に進む現代の日本において、患者数は今後もさらに増加する傾向にあります。そのため、医療機関だけでなく社会全体での温かいサポート体制の充実が求められています。
もっと詳しく:黒質線条体ドパミン神経系の進行性変性と有病率の推移
パーキンソン病(Parkinson’s disease: PD)は、中枢神経系の緩徐進行性変性疾患であり、アルツハイマー病に次いで頻度の高い神経変性疾患に位置付けられています。本邦における有病率は国民10万人あたり100〜180人と推計されており、加齢が極めて重要な危険因子であるため、65歳以上の高齢者層では人口10万人あたり約950人と罹患率が急激に上昇します。臨床経過は年単位で緩徐に進行し、病理学的には中脳黒質緻密部のドパミン作動性神経細胞の選択的な変性脱落を主軸とします。近年では、国際パーキンソン病・運動障害疾患学会(MDS)による新しい臨床診断基準が国際標準として定着しており、運動症状のみならず、多彩な非運動症状を包括した多系統変性疾患としての病態解明が進められています。
『脳神経内科2025 進行期パーキンソン病治療Update 』(科学評論社)

パーキンソン病の代表的な運動症状(4大症状)
動作の遅れと手足のふるえ
パーキンソン病の代表的な運動症状として、何もせず安静にしている時に手足が細かくふるえる「振戦(ふるえ)」があります。
また、衣服の着脱や歩行、寝返りなど、あらゆる日常の動作が遅くなり、動きの幅も小さくなってしまう「運動緩慢(無動)」も特徴的な症状です。
声が小さくなったり、顔の表情が乏しくなったり、字が小さくなったりすることも、この動作の遅れから生じる非常に大切なサインとなります。
筋肉のこわばりと体のバランス障害
筋肉が不自然に硬くなり、関節をスムーズに動かせなくなる「筋強剛(筋固縮)」や、体のバランスが崩れて転びやすくなる「姿勢保持障害」も現れます。
これら「振戦」「運動緩慢」「筋強剛」「姿勢保持障害」はパーキンソン病の「4大症状」と呼ばれ、日常生活の障害に直結します。特に姿勢保持障害は、歩き出しの第一歩が出にくくなる「すくみ足」と合わさることで、転倒のリスクを著しく高めてしまうため注意が必要です。
もっと詳しく:大脳皮質基底核ループの異常による運動緩慢と静止時振戦の機序
パーキンソン病の運動症状(4大症状)は、運動緩慢(無動)、筋強剛(筋固縮)、安静時振戦、姿勢保持障害に大別されます。運動緩慢は、黒質ドパミン神経細胞の脱落に伴う大脳皮質-大脳基底核ループの機能異常(直接路の活動低下および間接路の活動亢進)に起因し、日常動作の開始遅延や振幅の減衰を伴います。筋強剛は、他動的関節運動に対して速度に依存しない一定の抵抗を示す鉛管様強剛や、振戦が加わった歯車現象として触知されます。振戦は主に4〜6Hzの規則的な静止時振戦であり、姿勢保持後一定の潜時を経て出現するre-emergent tremorを認めることもあります。姿勢保持障害は病期が進行してから出現し、プルテスト(pull test)による後方突進現象(retropulsion)などで評価され、すくみ足(freezing of gait)や加速歩行(festination gait)と相まって易転倒性の主要因となります。
『脳神経内科2025 進行期パーキンソン病治療Update 』(科学評論社)

早期発見の鍵となる非運動症状
においの低下や便秘などの初期サイン
手足のふるえなどの運動症状が現れる何年も前から、頑固な便秘や、においが分かりにくくなる「嗅覚低下」が先行して起こることがあります。
これらは病気を早期に発見するための極めて重要なサインとして注目されています。
ただの老化現象や胃腸の不調と見過ごされがちですが、パーキンソン病の進行をいち早く捉え、適切な対応を始めるための大切な手がかりとなります。心当たりがあれば医師に相談することが重要です。
睡眠のトラブルや精神的な気分の落ち込み
睡眠中に大声をあげたり暴れたりする「レム睡眠行動障害」や不眠のほか、気分の落ち込み(抑うつ症状)、幻覚、立ちくらみを起こす「起立性低血圧」や頻尿などの自律神経のトラブルも多くの患者さんに見られます。
これらの症状は「非運動症状」と呼ばれ、運動の症状以上に患者さんの生活の質を大きく低下させてしまう要因となるため、周りのご家族が気づいてあげることもパーキンソン病のケアにおいて大変大切です。
もっと詳しく:Braak仮説に基づく自律神経障害とレム睡眠行動異常症(RBD)の進行
パーキンソン病の非運動症状(non-motor symptoms)は多岐にわたり、患者のQOL(生活の質)を著しく阻害します。特に便秘、嗅覚低下、レム睡眠行動異常症(RBD)は、中脳黒質の変性に先んじて出現する前駆期(prodromal stage)の重要指標です。Braakの進展仮説によれば、変性病変は延髄の迷走神経背側核や嗅球から起始し、上行性に進展するため、これらの自律神経障害や嗅覚障害が早期に発現すると考えられています。精神症状としては、興味や喜びの喪失を主徴とする抑うつ症状、幻視や妄想、アパシーがみられます。自律神経症状では起立性低血圧(OH)や過活動膀胱による排尿障害、睡眠障害では中途覚醒や日中の過度の傾眠(EDS)が臨床上大きな課題となります。
『脳神経内科2025 進行期パーキンソン病治療Update 』(科学評論社)

パーキンソン病の原因と脳内物質ドパミン
ドパミンの減少が運動に与える影響
私たちの脳内には、体の動きをスムーズに調節する「ドパミン」という神経伝達物質が存在します。
パーキンソン病になると、このドパミンを作り出す神経細胞が徐々に減少してしまい、脳からの運動の命令がうまく体に伝わらなくなります。
そのため、自分が意図した通りに体を動かすことが難しくなり、歩幅が狭くなったり、動作がぎこちなくなったりといった様々な不自由が生じるのです。ドパミンの補充が治療の基本となります。
レビー小体と異常なたんぱく質の蓄積
ドパミンを作る中脳の「黒質」という部分で、神経細胞がなぜ減少していくのかは完全には解明されていません。
しかし、細胞の中に「レビー小体」という異常なたんぱく質の塊が蓄積することや、活性酸素による細胞へのストレスが大きく関与していると考えられています。
また、一部の患者さんでは遺伝的な要因が影響していることも分かってきており、現在も世界中で原因究明と根本治療のための研究が急ピッチで進められています。
もっと詳しく:α-シヌクレインの凝集・細胞間伝播とドパミン枯渇の分子病態
パーキンソン病の運動症状は、中脳黒質緻密部(SNc)のドパミン作動性ニューロンが進行性に変性・脱落し、線条体へのドパミン供給が正常の20%以下に減少することで発現します。病理学的には、残存ニューロンの細胞質内にα-シヌクレインを主要構成成分とするエオジン好性の神経細胞内封入体(レビー小体:Lewy body)およびレビー神経突起(Lewy neurites)が広範に検出されます。細胞死の分子メカニズムとしては、α-シヌクレインの異常凝集やプリオン様の細胞間伝播(プリオノイド仮説)に加え、活性酸素による酸化的ストレス、ミトコンドリア機能不全(呼吸鎖複合体Ⅰの阻害など)、ならびにリソソームやオートファジー等の蛋白質分解系の機能破綻が複雑に相互作用していると推測されています。
『脳神経内科2025 進行期パーキンソン病治療Update 』(科学評論社)
パーキンソン病の治療法(薬物・手術・リハビリ)
L-ドパ製剤を中心としたお薬による治療
治療の基本は、脳内で不足しているドパミンを外から補う「薬物療法」です。
減少したドパミンを直接的に補う「L-ドパ製剤」の内服を中心としながら、ドパミンの作用を長持ちさせるドパミンアゴニストや、分解を防ぐお薬(MAO-B阻害薬やCOMT阻害薬など)を、症状に合わせて緻密に組み合わせて使用します。
これにより、日常生活を問題なく送れる時間を最大限に延ばすことを目指し、前向きな生活をサポートします。
手術療法とリハビリテーションの重要性
長期間の治療により、薬の効果が短くなる現象(ウェアリング・オフ)や、体が勝手に動く不随意運動(ジスキネジア)といった運動合併症が現れた場合は、脳に電極を埋め込む「脳深部刺激療法(DBS)」などの手術を検討します。
また、薬や手術と並行して、筋肉や関節の柔軟性を保ち、運動機能を維持するためのリハビリテーションを日々の生活に取り入れることが不可欠です。
適切な運動は進行を遅らせる効果も期待されます。
もっと詳しく:ドパミン補充療法とデバイス補助療法(DAT)の適応基準
パーキンソン病の治療は、薬物療法、手術療法、リハビリテーションを個々の重症度に応じて適切に組み合わせるトータルマネージメントが重要です。薬物療法の主軸は、ドパミンの前駆物質である「L-ドパ製剤」を用いたドパミン補充療法であり、持続的ドパミン受容体刺激(CDS)を意識して、ドパミンアゴニスト、MAO-B阻害薬、COMT阻害薬などを併用します。長期投与に伴い、薬効持続時間の短縮(ウェアリング・オフ)や不随意運動(ジスキネジア)などの運動合併症が顕著となった進行期には、視床下核(STN)や淡蒼球内節(GPi)を標的とする脳深部刺激療法(DBS)や、レボドパ・カルビドパ持続経腸療法(LCIG)、ホスレボドパ・ホスカルビドパ水和物持続皮下注入療法などのデバイス補助療法(DAT)が適応となります。
『脳神経内科2025 進行期パーキンソン病治療Update 』(科学評論社)

まとめ
パーキンソン病は、手足のふるえや動作の遅さといった運動症状だけでなく、便秘や睡眠障害、においの低下といった非運動症状も伴う複雑な病気です。
現代の医学においては、不足するドパミンを補うL-ドパ製剤などのお薬による治療や、症状に応じたリハビリテーション、運動合併症に対する手術療法など、トータルマネージメントによるアプローチが確立されています。
とはいえ、長期間にわたる治療の経過のなかでお薬の調整に悩まれたり、頑固な筋肉のこわばりや自律神経症状の管理が難しくなったりすることもあります。
患者さん一人ひとりの状態に寄り添い、多角的な視点から体をサポートしていくことが、この病気と長く前向きに付き合っていくための鍵となります。
こうした医療と並行して、生活の質を支える選択肢のひとつとして、鍼灸外来があります。
パーキンソン病の鍼灸外来
一般的な鍼灸院では行わない「体の状態を客観的に捉える方法」です。
足部の温度変化を確認する検査の一例をご紹介します。
「診断はついた。けれど、今の自分の状態がどうなのかは、よくわからない」
「薬を続ける以外に、何を意識すればいいのか、誰も教えてくれなかった」
私たちは、こうした行き場のない不安を抱える患者さんと40年間向き合ってきました。
当院では、サーモグラフィで全身の体温分布を可視化します。
パーキンソン病の方では、ご本人が感じている手足の震えや筋肉のこわばり、動きにくさと一致する形で、手足の温度分布に明らかな左右差や変化が見られることがあります。
その一致を一緒に確認することで、
「なぜ今の動きにくさが出ているのか」を整理する手がかりになります。
この検査には専門機器と解析技術が必要なため、一般的な鍼灸院で行われることはまずありません。 感覚や印象だけに頼らず、今の体の状態を落ち着いて見つめたい方のための情報提供の場として、 ご相談をお受けしています。
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参考文献
この記事は、以下の資料に基づき作成されました。
- 『脳神経内科2025 進行期パーキンソン病治療Update 』(科学評論社)
- 『パーキンソン病診療ガイドライン 2018』(医学書院)
- 『パーキンソン病を解剖する』(医歯薬出版社)
- 『パーキンソン病controversy』 (中外医学社)