
はじめに
パーキンソン病では、手の震えや動きにくさといった運動症状だけでなく、ほぼ全例(60〜98%)に何らかの睡眠障害を合併する病気です。
睡眠不足は日中の運動機能やQOL(生活の質)の低下にもつながるため、原因を正しく理解して早めに対策を行うことが大切です。
1.夜中に叫ぶ・暴れるのはなぜ?レム睡眠行動障害の正体
夜中に突然大声を出す、隣で寝ているご家族を殴ったり蹴ったりする、ベッドから転落するといった激しい異常行動は、脳が深く眠っている「ノンレム睡眠の異常(夢遊病など)」と誤解されがちです。
しかし医学的には、浅い眠りであるレム睡眠のときに起こる「レム睡眠行動障害(RBD)」という睡眠時随伴症です。
この症状は、手足の震えといった運動症状が現れる数年から10年以上も前から現れることがあり、病気の重要な「前触れサイン(前駆症状)」として知られています。
次のセクションでは、夜中に目が覚めてしまう原因について詳しく解説します。

レム睡眠行動障害(RBD)の病態生理とRWA
通常、レム睡眠中は脳幹の働きによって全身の骨格筋が弛緩し、体が動かない仕組みになっています。
しかしパーキンソン病では、運動症状が出現する前段階(BraakステージⅡ〜Ⅲ)において、脳橋から延髄(セロトニン系の縫線核、ノルアドレナリン系の青斑核、コリン系の脚橋被蓋核など)の変性が先行します。
これにより筋肉の弛緩スイッチが障害され、睡眠ポリグラフ検査(PSG)においてレム睡眠中にもかかわらず頤筋などの筋活動が抑制されず亢進した状態「RWA(REM sleep without atonia)」が観察されます。
その結果、誰かと戦うような鮮明で攻撃的な夢の内容と一致した異常行動や大声(叫び)が体に出てしまい、怪我の原因となります。
患者本人は朝起きると記憶がないことが多いため、同室のパートナーへの問診(RBD1Qなど)が早期発見に不可欠です。
参考文献:『パーキンソン病200年-James Parkinsonの夢-』(中外医学社)
2.パーキンソン病の不眠の原因:なぜ夜中に目が覚める?
パーキンソン病の不眠は、罹病期間が長くなったり病気が進行したりするにつれて増加し、進行期においては実に約80%もの患者さんが悩まされています。
一般的な不眠症のように「寝付けない(入眠障害)」ことよりも、夜中に何度も目が覚めてしまう「中途覚醒(睡眠の断片化)」が多いのが大きな特徴です。
大規模調査によると、夜間の睡眠を妨げる具体的な原因として、夜間頻尿(79%)、寝返り困難・夜間無動(65%)、有痛性筋痙攣(55%)、悪夢(48%)、ジストニア(34%)、下肢の不随意運動(33%)、幻覚(16%)などが挙げられ、なかでも「夜間頻尿」は中途覚醒の最大の要因です。
次のセクションでは、すぐにできる不眠の対処法をご紹介します。

夜間ウェアリング・オフと睡眠構造の断片化メカニズム
夜間にパーキンソン病の治療薬の効果が切れる(夜間ウェアリング・オフ)と、寝返りが打てなくなる「夜間無動」や、足の筋肉が異常に突っ張る「早朝ジストニア」が生じ、強い痛みや不快感で目が覚めます。
これに加え、足のむずむず感から足を動かさずにいられなくなる「レストレスレッグス症候群(RLS)」の併存も不眠を悪化させます。
さらに、ドパミンアゴニストなどの治療薬は「日中過眠」や前兆のない「突発的睡眠」を誘発しやすく、日中に居眠りを重ねることで夜間の不眠を悪化させる悪循環を引き起こします。
また、パーキンソン病患者さんは「客観的には激しい中途覚醒が起きているにもかかわらず、主観的には不眠を過小評価しやすい(過小誤認)」という神経生理学的な特徴があるため、周囲による観察が重要です。
参考文献:『みんなで学ぶパーキンソン病 改訂第2版』(南江堂)
3.今日からできる不眠と夜間の叫びへの効果的な対策
レム睡眠行動障害(RBD)による怪我を防ぐためには、まず「寝室環境の整備」が最優先です。
ベッドの高さを低くする、床に衝撃緩和マットを敷く、ベッド柵に保護パッドを当てる、周囲の硬い家具や角のあるものを片付けるなどの対策を行います。
夜間頻尿対策としては、夕食後のお茶やコーヒーなどのカフェイン、アルコールを控え、水分補給の工夫を行います。
どうしても夜間に水分を摂取したい場合は、お茶ではなく白湯を少量飲むことを心がけてください。
また、寝室にポータブルトイレや尿器を設置するだけでも、「トイレまで間に合わないかも」という不安が和らぎ、起きる回数そのものが減る効果が期待できます。
日中は太陽の光を浴びて適度な運動を行い、昼寝は「15時以前に30分以内」にとどめましょう。

持続的ドパミン受容体刺激(CDS)と薬物療法の最適化
夜間の寝返り困難や痛みを伴うオフ症状に対しては、就寝前にゆっくり長く効くタイプの薬(徐放性ドパミンアゴニストや、貼付剤であるロチゴチンパッチなど)を適切に処方してもらい、夜間も脳内のドパミン濃度を平準化する「持続的ドパミン受容体刺激(CDS)」を達成することで劇的に中途覚醒が改善します。
また、夜間に叫ぶRBDの症状が激しい場合は、環境整備に加え、医師と相談して「クロナゼパム」や「抑肝散」を眠前に服用することで異常行動の抑制が期待できます。
ただし、過活動膀胱に伴う頻尿薬や三環系抗うつ薬には抗コリン作用(認知機能低下や口渇の副作用)があるため高齢者には注意が必要であり、過眠がある場合の薬物選択は主治医と密に連携して行う必要があります。
参考文献:『脳神経内科 2025年・進行期パーキンソン病治療Update(BRAIN and NERVE 2026年1月号)』(医学書院)
まとめ
パーキンソン病の睡眠障害は、単なる「年のせい」ではなく、脳の神経伝達物質(ドパミン、セロトニン、アセチルコリンなど)の減少や病理的変化によって引き起こされる明確な医学的症状です。
適切な環境調整やお薬の調整(CDSの管理)を行うことで、睡眠の質は大きく改善させることができます。
患者さん一人ひとりの状態に合わせた適切なケアや治療を行うためにも、気になる症状がある場合は我慢せず、専門医やクリニックへお気軽にご相談ください。
パーキンソン病の鍼灸外来
一般的な鍼灸院では行わない「体の状態を客観的に捉える方法」です。
足部の温度変化を確認する検査の一例をご紹介します。
「診断はついた。けれど、今の自分の状態がどうなのかは、よくわからない」
「薬を続ける以外に、何を意識すればいいのか、誰も教えてくれなかった」
私たちは、こうした行き場のない不安を抱える患者さんと40年間向き合ってきました。
当院では、サーモグラフィで全身の体温分布を可視化します。
パーキンソン病の方では、ご本人が感じている手足の震えや筋肉のこわばり、動きにくさと一致する形で、手足の温度分布に明らかな左右差や変化が見られることがあります。
その一致を一緒に確認することで、
「なぜ今の動きにくさが出ているのか」を整理する手がかりになります。
この検査には専門機器と解析技術が必要なため、一般的な鍼灸院で行われることはまずありません。 感覚や印象だけに頼らず、今の体の状態を落ち着いて見つめたい方のための情報提供の場として、 ご相談をお受けしています。
当院までのルートを詳しく見る
関東方面からお越しの場合
バスで
電車で
バスで
電車で
バスで
電車で
バスで
電車で
北陸・東海方面からお越しの場合
バスで
電車で
バスで
電車で
バスで
電車で
バスで
電車で
参考文献
1:『パーキンソン病200年-James Parkinsonの夢-』(中外医学社)
※睡眠障害の合併頻度が42〜98%に及ぶ疫学データを紹介。良質な睡眠が翌朝の運動状態を向上させる「睡眠効果(sleep benefit)」の機序や、骨格筋の弛緩障害によるレム睡眠行動障害(RBD)を解説。診断には睡眠ポリグラフ検査で頤(おとがい)筋活動亢進(RWA)の証明が必須であることを参照。
2:『実践!パーキンソン病の治療薬をどう使いこなすか?』(南江堂)
※夜間頻尿(79%)や寝返り困難(65%)、有痛性筋痙攣(55%)など不眠を招く夜間随伴症状のLeesらの%統計データを提示。また、頻尿治療薬や抗うつ薬が持つ「抗コリン作用」が、高齢患者に物忘れ(認知機能低下)や口渇、便秘といった副作用を誘発するため、実臨床での注意が必要であることを参照。
3:『脳神経内科 2025年・進行期パーキンソン病治療Update(BRAIN and NERVE 2026年1月号)』(医学書院)
※進行期(advanced PD)において約80%の患者が不眠に悩んでいる統計を紹介。夜間の寝返り困難やオフの痛みを防止するため、就寝前にロチゴチンパッチ等の貼付剤を用いて脳内薬物濃度を平準化し、夜間も「持続的ドパミン受容体刺激(CDS)」を維持することを目指す最新の治療トレンドを参照。
4:『みんなで学ぶパーキンソン病 改訂第2版』(南江堂)
※うつやRBD等の非運動症状が中脳黒質障害より前に脳幹下部の縫線核や青斑核の先行変性で現れる「Braakの病変上行仮説」を解説。不眠3分類と夜間オフ対策としての眠前ドパミン補充を提示。生活指導として、睡眠リズムを崩さないよう昼寝を「15時以前に30分以内(20〜30分程度)」にとどめることを参照。
5:『パーキンソン病と運動異常』(中山書店)
※RBDの夜間叫び・暴れ対策として、ベッドを低くしマットレスを敷き、周囲に危険物を置かない寝室環境の整備が怪我予防に最優先。異常行動を抑える薬物治療として、就寝前に「クロナゼパム(0.25〜2mg)」や漢方薬「抑肝散」の内服が約9割の症例で有効かつ期待できることを参照。
6:『脳神経内科 2024年4月号 特集:Parkinson病-臨床と研究の新展開』(科学評論社)
※客観的には激しい中途覚醒や睡眠の断片化が生じているにもかかわらず、主観的には不眠を過小評価しやすい「過小誤認(睡眠状態誤認)」の病態を指摘。眠れているのに眠れないと訴える「逆説性不眠」とは真逆の、パーキンソン病患者特有の睡眠状態誤認について、神経生理学的な特徴を基に注意喚起した箇所を参照。
7:『パーキンソン病の見方、治療の進めかた』(中外医学社)
※睡眠維持を妨げる中途覚醒の最大の原因となる、夜間頻尿への生活指導アプローチを解説。対策として、夕食後の日本茶や紅茶などカフェインを含んだ刺激物の摂取を避け、「どうしても夜間に水分を摂取したい場合は、お茶ではなく白湯を少量飲むこと」を患者に指導し勧める具体的な対処方法を参照。