中国における東洋医学(中医学)での網膜色素変性症に対する漢方や鍼治療のアプローチは、「眼局所の病変だけでなく、全身の陰陽のバランスや自然治癒力を高めることで視機能を維持・改善する」という概念に基づいています。
1. 東洋医学的な考え方と治療アプローチ
「眼は結果であって原因ではない」「眼は肝にあり、眼は腎にあり」:目だけに原因があるのではなく、内臓(肝や腎など)の機能低下や気・血・ホルモンの巡りの悪さが目の病態として現れていると捉えます。そのため、内臓機能や全身の血行を整えることで、目に活力を与える治療を行います。
「将死不死(しょうしふし)」の細胞の活用:すでに死滅した視細胞を再生させることは困難ですが、変性の過程で「死に瀕しつつもまだ生き残っている細胞(将死不死の細胞)」に着目します。全身の血行促進や栄養補給によって、これらの細胞が持つ自然治癒力を助ける(応援団としての)総合治療を行います。
2. 中国で行われる「5つの総合治療」
中国の専門病院(湖南中医学院第一附属医院や北京の広安門病院など)では、単一の治療ではなく、以下の5つを組み合わせた総合的なアプローチが実施されました。
鍼灸(鍼治療):手足(足三里・曲池など)、背中(肝兪・腎兪・脾兪)、耳針、頭部や眼周を軽く叩く梅花針などを使い、全身の経絡刺激や血行促進を図ります。
漢方薬(生薬・煎じ薬):問診・脈診・舌診から患者個人の体質や状態(「証」)を見極め、枸杞子、菊花、柴胡、丹参、当帰などの生薬をブレンドした煎じ薬を処方します。
推拿(中国式整体・マッサージ):骨や筋肉、経絡を圧迫・刺激し、全身および末梢(手足や目周囲)の血流障害を和らげます。
薬膳(食事療法):塩分を控えた食事や、血行・抗酸化に関わる食材(クコの実、スッポン、レバー、緑黄色野菜など)を取り入れた食事療法を行います。
太極拳・気功:日常的な運動を通じて「気」の巡りを高め、全身の血行を促します。
3. 報告されている効果と実績
牟田口氏の事例:日本で失明宣告を受け、視野が左右5度まで狭窄していた牟田口裕之氏が、湖南中医学院で5ヶ月間の総合治療を受けた結果、視野の進行が停止・逆行して左右50〜55度に拡大し、視力も0.08から右0.6/左0.4へ好転した体験が記録されています。
現地病院での治療実績:
- 岳陽中医医院の発表では、総合有効率が80%(うち著しい効果のあった特別有効率が52%)と報告されています。
- 北京・広安門病院で治療を受けた日本人患者54名を対象としたアンケート調査では、自覚症状として視力向上(23%)や視野拡大(33%)のほか、「テレビが見やすくなった」「目が疲れにくくなった」「明るく感じる」といった生活上の変化が報告されています。
4. 日本・西洋医学界での評価と現状
日本の西洋医学界の対応:日本の一般的な眼科医療では、再現性や客観的な臨床エビデンス(科学的データ)が不十分であることや、医療体制・文化の違いから、否定的な見解や静観が大半を占めています。
保存的治療としての活用:日本国内の眼科医療においても、網膜の炎症や微小循環障害(血流障害)を抑えるアプローチとして、漢方薬の「柴胡剤(炎症抑制)」や「駆瘀血剤(血流改善)」の投与が初期の進行抑制・保存的治療として一定の効果を認められ活用されています。