DRPLA(歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症)とは?症状と遺伝性脊髄小脳変性症との違い

DRPLA(歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症)|遺伝性の脊髄小脳変性症との違いを解説

「歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(しじょうかく・せきかく・たんそうきゅう・るいたい・いしゅくしょう)」

診断書に書かれたそのあまりに長く、聞き慣れない病名に、言葉を失ってしまったかもしれません。 アルファベットで「DRPLA」と呼ばれるこの病気は、脊髄小脳変性症の一種ではありますが、他のタイプとは少し異なる、独特な特徴を持っています。

診断を受けたご本人やご家族が一番気になるのは、やはり「これからの生活」と「家族への影響」ではないでしょうか。 この病気は日本人に多く、そして発症する年齢によって症状がガラリと変わるという性質があります。

今日は、この複雑な病気の正体を、できるだけ専門用語を噛み砕いて整理していきましょう。 正しく知ることは、漠然とした不安を減らすための第一歩です。

1. DRPLAとは?(日本人に多い病気)

まず、この病気がどういうものか、基本的なところからお話しします。

1-1. 日本人に多い「第3のタイプ」

DRPLAは日本で3番目に多い遺伝性タイプ

脊髄小脳変性症は欧米に比べて日本に多い病気ですが、その中でもDRPLAは、マシャド・ジョセフ病(SCA3)、SCA6に次いで日本で3番目に多い遺伝性のタイプです。 欧米では非常に稀なため、日本人のための研究やデータが蓄積されている病気でもあります。

1-2. 名前が示す「障害される場所」

あの長い病名は、脳の奥深くにある「歯状核」「赤核」「淡蒼球」「ルイ体」という4つの場所が、変性して縮んでしまうことを表しています。 小脳だけでなく、これらの場所も影響を受けるため、単なる「ふらつき」だけではない、多様な症状が現れるのが特徴です。

2. 年齢で別人のように症状が変わる

DRPLAの最大の特徴は、「いつ発症したか」によって、まるで別の病気かのように症状が異なることです。

2-1. 若年型(20歳未満で発症)

若年者が発症した場合てんかん発作や発達の遅れがみられる

お子さんや若い方が発症する場合、ふらつきよりも先に以下の症状が目立ちます。

  • てんかん発作: 全身のけいれんや、体の一部がピクッとする「ミオクローヌス」という発作が主症状となります(進行性ミオクローヌスてんかん)。
  • 知的な症状: 学習面での困難や、発達の遅れがみられることがあります。

2-2. 成人型(40歳以降で発症)

中年以降で発症する場合、てんかん発作は目立ちません。

  • 運動失調: 歩くときのふらつき、呂律が回らないといった、一般的な脊髄小脳変性症の症状が出ます。
  • 不随意運動(舞踏アテトーゼ): 自分の意思とは関係なく、手足や体がくねくねと動いてしまう症状が出ることがあります。
  • 精神・認知症状: 物忘れ(認知症)や、怒りっぽくなる(性格変化)、妄想などが出ることがあります。初期には統合失調症などと間違われることもあります。

※20〜40歳で発症する「早期成人型」は、これらの中間的な症状を示します。

3. 遺伝の仕組みと「表現促進現象」

ここは少しデリケートですが、ご家族にとって最も重要な部分です。

3-1. 50%の確率で遺伝する

DRPLAは「常染色体優性遺伝(じょうせんしょくたいゆうせいいでん)」です。 性別に関係なく、親から子へ50%の確率で遺伝します。

3-2. 次の世代で「早まる」現象

DRPLAには「表現促進現象(ひょうげんそくしんげんしょう)」または「アンティシペーション」と呼ばれる特徴があります。 これは、親から子へ遺伝する際に、原因となる遺伝子の繰り返し(CAGリピート)が増えてしまい、親よりも発症年齢が若くなり、症状が重くなる傾向があるということです。

特に、父親から遺伝する場合にこの傾向が強く出ることが分かっています。 「祖父は晩年に少しふらつくだけだったが、その息子は若くしててんかんを発症した」というように、一見すると違う病気のように見えるため、診断が難しかった歴史があります。

4. 検査と診断

DRPLAの確定診断はMRIと遺伝子検査

確定診断には、以下のステップが踏まれます。

  1. MRI検査: 小脳や脳幹の萎縮を見ます。成人発症の場合、脳の「白質」という部分に広範囲な変化が見られるのが特徴です。
  2. 遺伝子検査: 血液検査で、第12番染色体にある遺伝子のリピート数を調べます。これで確定診断が可能です。

ただし、遺伝子検査はご本人だけでなく、血縁の方の未来にも関わる重大な検査です。検査の前には、必ず専門家による遺伝カウンセリングを受けることが推奨されています。

5. 治療とこれからの生活ケア

残念ながら、遺伝子を修復する根本治療薬はまだありません。 しかし、症状ごとの「対症療法」は確立されています。

5-1. 薬によるコントロール

  • てんかん発作: 抗てんかん薬(バルプロ酸、クロナゼパムなど)を使って発作を抑えます。
  • ふらつき: 脊髄小脳変性症治療薬(セレジストなど)を使います。
  • 精神症状: 不安や妄想が強い場合は、お薬で気持ちを落ち着かせることができます。

5-2. 日常生活の工夫

  • 転倒予防: ふらつきや不随意運動があるため、手すりの設置やリハビリが重要です。
  • 嚥下(えんげ): 飲み込みにくさが出ることがあるため、食事形態の工夫が必要です。
  • 生活リズム: てんかん発作を予防するために、規則正しい生活と服薬管理が何より大切です。

6. まとめ

DRPLAは、症状が多様で、ご家族への影響も考慮しなければならない難しい病気です。 しかし、てんかん発作をお薬でコントロールしたり、リハビリで機能を維持したりと、打てる手立てはあります。

一人で抱え込まず、神経内科の主治医や遺伝カウンセラーとよく相談しながら、一つひとつの課題に向き合っていきましょう。


脊髄小脳変性症の鍼灸外来

一般的な鍼灸院では行わない「体の状態を客観的に捉える方法」です。

脊髄小脳変性症の方の足部の温度分布を確認する様子

足部の温度変化を確認する検査の一例

「診断はついた。けれど、今の自分の状態がどうなのかは、よくわからない」

「薬を続ける以外に、何を意識すればいいのか、誰も教えてくれなかった」

私たちは、こうした行き場のない不安を抱える患者さんと40年間向き合ってきました。


当院では、サーモグラフィで全身の体温分布を可視化します。 脊髄小脳変性症の方では、 ご本人が感じている歩きにくさやふらつきと一致する形で、 手足の温度分布に左右差が見られることがあります。 その一致を一緒に確認することで、 「なぜ今の動きにくさが出ているのか」を整理する手がかりになります。

この検査には専門機器と解析技術が必要なため、一般的な鍼灸院で行われることはまずありません。 感覚や印象だけに頼らず、今の体の状態を落ち着いて見つめたい方のための情報提供の場として、 ご相談をお受けしています。

参考文献

この記事は、以下の資料に基づき作成されました。

  • 脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018(南江堂)
  • 脊髄小脳変性症マニュアル決定版!(日本プランニングセンター)
  • 脊髄小脳変性症の臨床(新興医学出版社)
  • 脊髄小脳変性症のすべて(日本プランニングセンター)

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この記事を書いた人

難治性疾患 認定鍼灸師 / 吉池 加奈

顔面と耳の解剖学を極めたのち、美容鍼や耳鼻科疾患、難病の鍼治療に取り組んでいる。患者さんとの会話をよく覚えており、持ち前の陽気さで周囲をぱっと明るくさせる人気者。興味を持ったものには一直線、休日は韓国料理食べ歩きや推し活で忙しく過ごす。

難治性疾患 認定鍼灸師 / 吉池 加奈

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