脊髄小脳変性症と診断されたら避けるべき5つの生活習慣

脊髄小脳変性症|診断されたら改善すべき生活習慣を詳しく解説

「これから先、普通の生活はできなくなるの?」

診断を受けたばかりの時、あるいは症状が進んできた時、これまでの当たり前が崩れていくような不安に襲われるのは当然のことです。

でも、生物学の視点から少しだけ希望のあるお話をさせてください。 この病気は進行性ですが、「病気の進行スピード」と「生活の質(QOL)」は、日々の過ごし方で大きく変えることができます。

今日は、病気そのものの進行とは別に、症状を悪化させてしまう「避けるべき5つの生活習慣」についてお話しします。 これを知っているだけで、1年後、5年後の身体の状態に差が出てくる可能性があります。

1. 「飲酒」を続けること

飲酒は弱っている小脳に追い打ちをかける

お酒を飲むと、健康な人でも足元がふらつきますよね? あれはアルコールが小脳を麻痺させているからです。つまり、脊髄小脳変性症の方がお酒を飲むということは、弱っている小脳にさらに追い打ちをかけることになります。

なぜ避けるべき?

  • アルコールは小脳機能を一時的に低下させるだけでなく、慢性的に大量に摂取すると、それ自体が小脳萎縮の原因(アルコール性小脳萎縮症)になります。

対策

  • 「少しくらいなら」と思いたくなりますが、基本的には禁酒をお勧めします。ノンアルコール飲料などを上手に活用して、肝臓と小脳を休ませてあげましょう。

2. 過度な「安静」と運動不足

過度な安静は使わない筋肉が衰える廃用症候群のリスクがある

「ふらついて転ぶのが怖いから、家でじっとしていよう」 その気持ち、痛いほどわかります。でも、生物学的にはこれが一番怖い「罠」なんです。

なぜ避けるべき?

  • 私たちの筋肉や関節は、使わないと驚くほどの速さで衰えます。これを「廃用症候群(はいようしょうこうぐん)」と言います。病気で神経が少し弱っても、筋肉まで弱らせてしまうと、本来ならまだ歩けるはずなのに歩けなくなってしまいます。

対策

  • 「リハビリ=激しい運動」ではありません。ベッドから起きて座ってご飯を食べる、トイレまで歩く。これだけでも立派な運動です。入院中や自宅療養中でも、「寝たきりの時間」を減らすことが進行を遅らせる最大の鍵です。

3. 「睡眠不足」やいびきの放置

「最近、夜中に何度も目が覚める」「昼間、急に眠くなる」 もしそんな症状があれば、ただの寝不足ではないかもしれません。

なぜ避けるべき?

  • 特に多系統萎縮症(MSA)の方では、睡眠時の呼吸トラブル(いびきや無呼吸)が高い頻度で起こります。睡眠の質が悪いと、脳の疲労が取れず、日中のふらつきや集中力低下に直結します。

対策

  • 大きないびきをかいている、寝ている時に暴れる(夢を見て手足を動かす)などの症状があれば、すぐに主治医に相談してください。呼吸を助ける器具(CPAPなど)を使うことで、日中の動きが劇的に良くなることもあります。

4. 過度な「ストレス」と焦り

過度なストレスは体の過緊張を引き起こす

「早くしなきゃ」「人に見られている」 そう思った瞬間、急に足がすくんだり、手の震えが止まらなくなったりした経験はありませんか?

なぜ避けるべき?

  • 精神的な緊張や不安は、体のこわばりや震え(パーキンソン症状)を悪化させます。「急ぐ」「焦る」という心理状態はバランスを崩す最大の原因です。

対策

  • 強いストレスが続くと、睡眠の質が低下し、身体の回復力が落ちやすくなります。動作がゆっくりになるのは、体がバランスを取ろうとしている証拠。「ゆっくりでいいよ」「焦らなくて大丈夫」と、自分自身に言い聞かせてあげてください。周りのご家族も、急かさずに待ってあげることが一番のサポートになります。

5. 「転倒リスク」がある環境での無理な動作

「ながらスマホ」や「考え事をしながら歩く」。 これ、絶対にNGです。

なぜ避けるべき?

  • 一度に二つのことをしようとすると(二重課題)、注意力が散漫になり、転倒のリスクが跳ね上がります。転倒による骨折は、そのまま寝たきり生活の入り口になってしまうことが本当に多いのです。

対策

  • 一つずつこなす: 歩くときは歩くことに集中する。
  • 環境を整える: 廊下に物を置かない、手すりをつける。
  • 無理をしない: 方向転換や高い所の物を取る時は、必ず何かにつかまる。

6. まとめ

最後に、もう一度5つのポイントを振り返りましょう。

  1. 禁酒: 小脳へのダメージを避ける。
  2. 動く: 廃用症候群(筋肉の衰え)を防ぐ。
  3. 快眠: いびきや無呼吸を放置しない。
  4. リラックス: 焦りは震えや転倒の元。
  5. 転倒予防: 「ながら動作」をやめて、一つずつ確実に。

病気そのものの進行を完全に止めることは、今の医学ではまだ難しいかもしれません。 でも、生活習慣を整えることで、合併症や二次的な悪化を防ぎ、「今の機能を最大限に活かして楽しく過ごす」ことは十分に可能です。

全部を一気に変えようとしなくて大丈夫。 まずは「今日はお酒を控えてみようかな」「ちょっとだけストレッチしようかな」という小さな一歩から始めてみてくださいね。


脊髄小脳変性症の鍼灸外来

一般的な鍼灸院では行わない「体の状態を客観的に捉える方法」です。

脊髄小脳変性症の方の足部の温度分布を確認する様子

足部の温度変化を確認する検査の一例

「診断はついた。けれど、今の自分の状態がどうなのかは、よくわからない」

「薬を続ける以外に、何を意識すればいいのか、誰も教えてくれなかった」

私たちは、こうした行き場のない不安を抱える患者さんと40年間向き合ってきました。


当院では、サーモグラフィで全身の体温分布を可視化します。 脊髄小脳変性症の方では、 ご本人が感じている歩きにくさやふらつきと一致する形で、 手足の温度分布に左右差が見られることがあります。 その一致を一緒に確認することで、 「なぜ今の動きにくさが出ているのか」を整理する手がかりになります。

この検査には専門機器と解析技術が必要なため、一般的な鍼灸院で行われることはまずありません。 感覚や印象だけに頼らず、今の体の状態を落ち着いて見つめたい方のための情報提供の場として、 ご相談をお受けしています。

参考文献

この記事は、以下の資料に基づき作成されました。

  • 脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018(南江堂)
  • 脊髄小脳変性症・多系統萎縮症Q&A 172((NPO)全国 SCD-MSA友の会編)
  • 小脳と運動失調(中山書店)
  • 脊髄小脳変性症・多系統萎縮症のリハビリテーション((NPO)全国 SCD-MSA友の会編)

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この記事を書いた人

難治性疾患 認定鍼灸師 / 吉池 加奈

顔面と耳の解剖学を極めたのち、美容鍼や耳鼻科疾患、難病の鍼治療に取り組んでいる。患者さんとの会話をよく覚えており、持ち前の陽気さで周囲をぱっと明るくさせる人気者。興味を持ったものには一直線、休日は韓国料理食べ歩きや推し活で忙しく過ごす。

難治性疾患 認定鍼灸師 / 吉池 加奈

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顔面と耳の解剖学を極めたのち、美容鍼や耳鼻科疾患、難病の鍼治療に取り組んでいる。患者さんとの会話をよく覚えており、持ち前の陽気さで周囲をぱっと明るくさせる人気者。興味を持ったものには一直線、休日は韓国料理食べ歩きや推し活で忙しく過ごす。

難治性疾患 認定鍼灸師 / 吉池 加奈